短編小説
2
放課後、教室を訪れた冴と共に下校する。
今日は仲居さんに会うために、例の冴の赴任先に行くつもりだ。
あれ以来仲居さんとは会っていないので結構楽しみである。
ちなみに、赴任がどうのとかの説明も未だに俺は受けていない。
まあしなくていいとか言ったのは俺だし、冴がこうしてここにいるってことはもう済んだことなんだろうし、今更掘り返すのもあれなんだけど。
ああでも、知的好奇心が疼く……。
そんな悶々とした思いを抱えたまま、俺はその怪しげな店の扉をくぐった。
「あれ冴さん?おかえりー……ってわー溢君おひさー!」
「あ、中……え、えええええ……?」
あの時は俺達しか人がいなくて随分寂れた場所に見えたが、今は喧嘩がお仕事ですといった風貌のお兄さん方が大勢集まりかなり危険なバーに見えた。
ガヤガヤ騒がしい店の中で扉が開く音も仲居さんの声も聞こえなかったようだ。
みんな俺達に背を向けたまま会話酒etcを楽しんでいる。
やばいこの隙に今すぐこの店から飛び出したい
俺の先に店に入った冴は何も言わずにその店内を見つめていたが、しばらくして眉をグッと繋げて中井さんに掴みかかる。
「中井てめぇ、どういうことだ……」
「えへっ冴さんがボコったあとに拾って来ちゃっっっ」
「冴ぇぇええ!」
笑いながら答えていた仲居さんをバキィと殴った冴。
目の前で一悶着起こしかけてる幼なじみに俺はギョッと叫んだ。
冴は俺を振り返り、フンと鼻を鳴らして掴んでいた仲居さんの胸ぐらを放す。
「言っとくが俺は微塵も悪くねぇぞ」
「現行犯じゃねえか……」
聞こえてきた冴の自己弁護に呆れて突っ込む。
「仲居さん大丈夫ですか?」
「溢君……」
床に沈み込んだままの仲居さんに声をかけると、彼はぼんやりと俺の顔を見上げた。
「ううっごめんねっ!別に君から冴さんを引き離したいわけじゃないんだよ!ただ冴さんに仕事を手伝って欲しいだけなんだ!」
……よくわからないけどこの口振り、ひょっとして冴、また巻き込まれかけてる……?
仲居さんの信用値にマイナス補正がかかった瞬間だった。
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