短編小説 5 「……溢君」 仲居さんに呼ばれハッとした。 そうだった、この場にいるのは俺達だけじゃなかった。 「冴さんとほんとに仲がいいんだね。でも、あまり問いつめないでやって? 今回のことは、俺が冴さんを巻き込んだだけなんだ」 「仲居さん……?」 「冴さんは君に何かしらの影響が及ばないように、キレながらでも奮闘してた。 今君に事情を話したら、その努力も無になってしまう」 仲居さんがしんみりと笑いながら言った。 ……冴が俺を避けた理由はそれか……? 勘づいて俺は冴をみた。 冴はばつが悪そうに俺から顔を背けている。 「……ほんと馬鹿だな冴」 するりと言葉が漏れた。 それにピクリと反応したのは仲居さんで、冴は微動だにせず、聞いているのかいないのかも俺にはわからない。 「お前が何に首突っ込んだかなんて俺には何一つ関係ない。説明の有無だって、本当はどうでもいいんだ」 それはあくまで、お前の問題なのだから。 「お前が話せないって言うならそれでいい。 その上で一言、お前に言いたいのは……」 冴と視線が絡み、俺はクッと口の端を吊り上げる。 言葉にはしない。 でもわかってんだろ、冴。 俺とお前は幼なじみ。 どっかの親友たちが、どっかのカップルたちが持ち得ない縁が俺達にはある。 「……ああ、わかったよ」 冴がニヤリと笑い返し短く応えた。 仲居さんはは?と俺と冴を忙しなく見やる。 挙動不審な仲居さんに冴が眉を顰めた。 「うぜぇぞ仲居」 「いやだって…… え?2人ってデキてるんですか?」 「ちょっと仲居さん……」 「死ね。てか殺す」 今の何を見たらそういう発言に繋がるんだ…… 青筋を浮かべた冴が固く拳を握った。 ぎょっとした顔で逃げる仲居さんに俺は思わず笑った。 お前がどこにいても、なにをしてても。 俺、待ってるから。 ……早く、帰って来いよ! [*前へ][次へ#] [戻る] |