[携帯モード] [URL送信]

短編小説
恋のしかたを教えよう2

「……どうしたんだこれ」


学校が終わったら帰宅部の俺は即、学校を出る。
いつも通り階段を下りていると普段は見かけない人だかりにぶつかった。


「あー……多分……」

「あ、ゆっち達!やっべぇよ!」


何か言い掛けた賢海をさえぎったのはしずるの叫び声だった。
人混みから必死に這い出てこちらに来ると、しずるは膝に手をつきゼェハァと荒い息を整えた。


「なにがあった?きむ先とうとうお亡くなりに?」


きむ先とは木村先生の事で、俺やしずる達の担任のおじいちゃん先生である。
立派な白髪にしわしわの顔は定年なんて優に超えてるのではないかと噂されていた。
遂に限界を迎えたか、と両手を合わせる俺にしずるはちがーう!と声を荒げた。


「そんなつまらないことじゃな〜い!
クロネコ様がだれかと話してるんだって!」

「…………ネコに様?」


つか話すって……


「ゆっちんばかー!?クロネコ様っつったら黒澤大和様のことでしょー!?」

「知らん……」

「知らないことないだろ。うちの生徒会長だぞ」


そんなこと言われても覚えがない。
集会とかあっても基本寝てるからね、俺。

あ、てかくだらないことに気がついてしまった……


「まさか、クロネコの由来はクロネコヤマトから……?」


なんて安直なあだ名……。
かわいそうに、なんて心にも無いことを言って笑い飛ばそうとした俺を、しずるが青ざめた顔で窘めた。


「ちょっ馬鹿ゆっち……!」

「おいそこのメガネ!今大和さまをなんて言った!?」

「クロ様を侮辱するなんて何万年も早いよこのブサイク!」


突如人混みの中から何人かが俺に対して突っ掛かってきた。
賢海は最初の一人目が声を発した時点で逃亡。


「は!?俺何も……」


わけもわからずしずるのいたはずの場所をみても、あいつもいつの間にか消えてしまっていた。

嘘だろおい……。

知らない奴らに周りを完全に囲まれ孤立無援状態。
ただ、奴らは一斉に俺を罵ってくるから何一つ聞き取れないためノーダメージだ。
こいつらがバカで助かった。


「あの、大和さん!?」


突然、聞こえてきた叫び声。
あまり音量のあるものじゃなかったのに、辺りに響いたそれに俺への罵声もぴたりと止んだ。


「騒がしくなって話しにくい。今度は生徒会室で話そう」


シンと静まり返った中に、鋭く冷たい声が通った。
例の黒猫様だろうか。
これだけはっきり聞こえるということはそこそこ近くにいるらしい。


「……おい」


苛立ちを含んだ声と共に次々と人混みが割れていく。
わけがわからないまま、俺も壁際まで押しやられた。

誰かが……いや、会長と思わしき人が、割れた道を歩いてくるのが見えた。

生徒会というお堅いイメージとは裏腹に、高校生らしく制服を着崩して髪を少し盛っている。
色的に確実に染めたんだろうけど、痛んでる様子はあまり見られない。
背だって自分とあまり変わらないのにこうも違って見えるのは、射貫くような眼差しのせいだろうか。
これだけ多くの人に囲まれても、彼の目はぶれずにただ前だけを見据えていた。

思わず息さえ止めかけた俺に、コツコツと響く足音が辛うじて時の流れを思い出させてくれる。

黒澤大和、彼には確かに、周りの者を支配するような、圧倒的な王者のオーラがあった。



「……あれがクロネコ様、か……」


通り過ぎていく背中を見つめて、ポロリと言葉を漏らす。

凛と前を向くあの瞳に、俺はどうすれば映ることができる……?

手を伸ばしかけて冷静になる。
俺の周りにいる奴らみんな、きっと俺と似たようなことを思っているのだ。


……あああああ!

厄介なことに俺の初恋は、高嶺の花への一目惚れらしい。
無謀だと頭ではわかっていても、次があるかもわからない恋を報われないままで終わらせられなかった。




「しーずる!」


翌日、教室に着いた俺は上機嫌にしずるのもとへと向かった。
この際俺を置き去りにしたことは忘れてやる。


「なにさゆっち」


しずるは自分でも思うところがあったのか少し警戒して俺を窺う。
俺は笑顔でグッと親指を立てた。


「クロネコ様のおっかけ行こうZE☆」


どんな形でもいい、彼の目に俺が映るなら。
彼ならこの馬鹿げた仮面も砕いてくれる。
そんな気がしていた。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!