短編小説
2
「おはよー」
にこやかに挨拶してくる中居さんは、見た目こそチャライものの親近感を与えてくれる。
「おはようございます。すいません、遅れちゃって」
「気にすんなー。
それより、ちょいタバコ臭いけど我慢だよ!」
間延びした声で言って彼は車のドアを開けた。
瞬間むわんと襲う予想外の異臭に、俺は思わずせき込んだ。
「乗る奴みんなバラバラの銘柄吸ってるからさ〜。
あんま遠くないしそれまで頑張っ!」
絶対酔うな……
車に乗り込みながら、俺は口を押さえた。
「…………仲居さん、窓開けていいですか……?」
「もち!気ぃ利かなくてわりぃね」
新鮮な空気を吸い込む。
……駄目だ、これくらいじゃ酔いは止まらない。
「溢君、丁度いいしおつかい行くか。
冴さん林檎かじりたいって言ってたんだ」
「すみません…………」
近くにあったスーパーに車を止める。
フラフラなまま車を降りると、仲居さんが苦笑いしながら肩を支えてくれた。
「なんか欲しいもんある?」
「あ……だいじょうぶです」
店内を周りながら中居さんが聞いてくる。
今は何も食べたくないな、と首を振ると、仲居さんはそう?と俺の顔色を伺った。
「まだ具合悪そうだし、冷たいものとかいらない?
いちおパピコ買っとくな」
片方俺が食うし、と笑う仲居さん。
人は見かけによらないのだと心から思い知らされる。
「じゃあ戻ろっか。
悪いけどもう少し頑張れ」
袋を引っさげて車に戻る。
新鮮な空気を取り入れられたから、もう少し頑張れそうだ……
「おい、てめえら」
ドアに伸ばした手が固まった。
「ちょっと顔貸してもらおうか」
攻撃的な声でそう言うと、男たちはあっという間に俺達を取り押さえた。
喧嘩したことない俺はもとより中居さんもあっさりと後ろ手に押さえつけられてしまっている。
「てめえは冴んとこの中居だろ?誰だ?この大量生産されてそうなガキは」
俺を目で指し尋ねる男を中居さんは鼻で笑った。
「そんなこと、お前は知らなくていいことだ」
この状況で強気に出た中居さんにぎょっとしたのもつかの間。
仲居さんはバッと拘束を振りほどき、訳も分からぬうちにその場にいた5人を床に沈めた。
俺を拘束していたやつが腕を押さえたまま後ずさる。
「放せってんだよ」
仲居さんがグイと俺の胸ぐらを掴んだ。
前のめりになった俺の頭上にとてつもない速さで拳が通る。
俺達を襲ったやつが倒れるのと同時に、俺はつんのめるように地面に手を付いた。
「っかー、朝っぱらから元気なやつらだなあ。
じゃあ溢君、車に……」
戻ろうか、そう続いたであろう仲居さんの言葉が、ゴッという鈍い音を境に途切れる。
「元気なのはどっちだ、手間かけさせやがって」
振り返れば新たに男が三人。
倒れた仲居さんを見下ろすように、バッドを手にして立っていた。
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