短編小説
率直すぎる
俺は優しい奴が嫌いだ。
仲良くやっていたと思ったのに、突然手の平を返したように冷たい目をして罵倒する。
……語弊があるな。
俺は優しいフリをした奴が嫌いなんだ。
「文句があるなら初めから言えばいいんだ。
どうしてそれを黙ったまま……耐えきれなくなったら人目のあるところで爆発させるんだよ……っ!」
俺は優しいと評判だった友達と派手に決別した。
以来ずっと悪目立ちして針の筵だ。
なんたってあいつは外面のいい腹黒野郎だからな!
表向きにだまされて、みんな奴に懐く。
あいつが怒鳴るって相当だよなー、なんていう周りの声がチクチク俺を攻撃してくる。
無数の声を潰すことも躱すこともできず、俺はこの相良にその怒りを語ることしかできなかった。
「……あのねえ、君が明らかにひどいことしてたから周りも彼に同情したんだし」
相良は呆れたような顔で傷心の俺にそんな言葉を投げかける。
俺が悪いと言わんばかりの相良に俺はくわっと拳を握った。
「今の俺だって同情に値するはずだろ……っ」
俺の訴えを相良は別にの一言で切り捨てた。
くそっ思いっきり蔑みやがって……。
「……俺も調子乗ってたとは思うけど!でもあいつが笑ってたから……!」
「最近の子は空気を壊さないようにそういうことするんだよ」
悉く俺を退ける相良に内心項垂れながらも、ここで挫けるわけにもいかず強気に返す。
「そんなの人に意見するのが怖いだけだろ!
……お前まで、俺を悪人扱いか」
俺のダチなのに。
縋るように見つめれば、相良は男には見えないくりくりとしたまん丸い目を閉じて、ずいぶんと重いため息を落とした。
「別に悪人とまではいかないけど。
でも会う度いちいち大歓迎だったりなんでも一口要求してきたり相当うざい。
あと声がでかい。純夜と話した内容はみんなに知れ渡る」
「お前本当に俺のこと嫌いだよな!」
相良との付き合いは長いからキッパリ言われることも予想してたけど、もうちょっと救いが欲しかった……!
……でもまあ素直に言ってくれた方が俺としてはわかりやすくて助かるのだけど。
相良は腕を組みながら、なんとも言えない顔で俺を見つめた。
「ほんと、なんか鈍感だよね……。別に僕は純夜のこと、嫌いじゃないんだけど」
「……えっ」
嫌いじゃない、と言われて思わず目を丸くした。
辛口の相良からは俺に対しての批判しか聞いたことがなかったから。
ドキドキと音を立てる心臓に焦っていると、ふと相良が微笑んだ。
「嫌いだったらこんなめんどくさいやりとり付き合わないよ」
柔らかな声で告げられたその言葉。
裏も表もない純粋なそれは、俺にとって一番嬉しいものだった。
「……相良」
「何?」
「好き」
俺は返事を待たずにガバッと相良を抱きしめる。
こんなにときめいたことがかつてあっただろうか。
いつでも本心で語る相良から俺への好意を聞けるなんて。
「ねえ相良。本当好き。付き合って」
腕の中に閉じこめた相良に向けて、俺はつたない言葉で告白をした。
勢いに任せたそれは無計画にも程があったが、この気持ちを何としてでも伝えなければと思った。
相良は何やらもぞもぞ動くと、ぷはぁ、と大袈裟に俺の胸から顔を出した。
そして至って真面目な顔で、俺の目を見据えてこう告げた。
「いいけど付き合ったら僕が攻めるよ」
…………。
「この体格差でか!?
俺176だぞ!?お前160もないだろ!?」
相良が攻めなのは想像してなかった。
ひょっとして遠回しに付き合う意思がないと表明しているのかとも思ったが相良に限ってはあり得ないだろう。
驚く俺に、相良は表情の乏しい面を珍しく歪めた。
「……もう二度と話しかけるな」
「っっなんでだよ相良っ!?さっき嫌いじゃないって……!」
突然の豹変に心臓が凍る。
悲鳴を上げる俺に無言を貫く相良。
何でだよ……あれは嘘だったのか?
俺が落ち込んでたから、柄にもなく優しい嘘をくれたのか?
答えを寄こさずスタスタと去ってゆく相良の背中に俺は半泣きで叫ぶ。
「馬鹿野郎ーっ!!お前も偽善者だーっ!」
その大絶叫に相良はぴたりと足を止め、クルリとこちを振り向いた。
「……じゃあ純夜は極悪人だよ」
「あ?」
「言っとくけど、泣きたいのはこっちだからっ!」
相良はサッと踵を返し俺の前から消えてしまった。
初めて聞いた、相良の感情的な声。
悪いのは俺だって?
俺には理由がわからなかったけど、相良が言うんだから多分そうなのだろう。
相良が嫌がるとわかっててもまた声をかける俺は、確かに結構な悪人だと思う。
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