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短編小説
見えない世界2

黒澤大和は歴代の生徒会長の中でも随一の優秀さを誇る。
容姿は然る事ながら、学力も学年トップ。
風の噂によれば、運動神経もよく喧嘩もかなり強いとか。

極めつけは性格!
見かけによらず正義感が強くって幾多の場面で幾多の人が救われている。
今までの会長も相当な人気だったらしいけど、黒澤会長はやっぱり別格らしい。


そんな会長は放課後、生徒会室に閉じこもる。
会長はモテるくせに取り巻きとかそういう団体が大嫌いだそうでとにかく人を避けるのだ。
つまり!会長に会うには生徒会室に入らなきゃならない。

生徒会室に入れるのは原則生徒会役員だけで、例外は呼び出されたりなんなりで生徒会室に用事がある生徒。

俺もゆっちーも役員じゃあない。
だけど……


「みぃなみ〜〜ん!今日の忘れ物だよーっ」

「ありがとうしず。はいあーん」


生徒会副会長である原田南は、俺が届けたチョコを受け取るとそれを俺の口元へ運んだ。


「また来たのか……」


苦々しげに呟いたのは黒澤会長。
会長と対等に渡り合えるみなみんの歓迎があるからからこそ、俺たちはここへ来られるのだ。

みなみんは俺とゆっちーが入学したてで迷子になっていたのを保護してくれた先輩だ。
お礼にゆっちーが携帯していたお菓子をあげたら何時の間にか仲良くなっていた。


「ほらほら、先輩もあ〜ん」

「いらん」


チョコを差し出すゆっちーに会長が眉をしかめた。
でもゆっちーもめげない。


「あーん」

「……いらん」


……近くで会長を見れるっていうのは確かにいいと思うよ?
顔や名前も覚えて貰えるし。

でも、ここにくる度に会長の好感度が下がっていくような気がするのは気のせい……?

別に俺にはなーんも問題ないけれど、ゆっちーらしくない行動だなぁと思う。
もっと要領よく動けそうな感じがするから。


じゃれてきたみなみんをそのままに再び2人をチラ見すると、思いがけず会長と目があった。


「…………」

「……えっと……?」


互いに目を逸らすタイミングを見失った。
入り浸っていた割には今まで話したことがなかったので言葉に詰まる。

……でも、ここで無言貫くのも感じ悪いかな……?


「あ〜ん……?」

「…………」


苦し紛れに持っていたチョコレートを差し出す。
しばらく彼はそれを見つめていた。……というか睨んでたのかな?

とにかく、反応は貰えそうにないな、と手を引っ込めようとするその前に、会長は俺の手からチョコをパクッとさらっていった。


「…………え……?」


目の前でそれを見ていたゆっちーがぽつりと声をあげる。

俺は何も出来ず固まった。

声は出さないものの、みなみんもぱかりと口を開けてキョロキョロ俺と会長を交互に伺っている。


「……うまいな」


静まりかえる忙しい室内で、しれっと会長が呟いた。
お前この部屋の空気わかってる?絶対わかってない!


「ちょ……会長の気まぐれタイミング悪ぅ〜……」


俺は顔を引きつらせながらゆっちーを窺った。
ゆっちーはいつもの人当たりのいい笑みを無くし、無表情に俺を見つめる。
待って、なんでそんな顔してるの?
ははは、と乾いた笑いを浮かべる俺の背中でみなみんが小声で呟いた。


「ジェラシー?」


いやいやいやいや、まさか。まさか、ねぇ?



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あきゅろす。
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