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短編小説
奪い去る

俺は安達 溢。
顔も、頭もオーラも平凡。
類い希なる平凡ボーイ略して平ボーイな俺だけど、一つだけ特別なことがある。



ただ今午後3時40分。
下校途中の人や輪っかを作って喋る人達で賑わう中、俺は1人携帯を手に顔を顰めた。


「はあ?族潰しぃ?」

『おう、わりぃけど1人で帰れよ』

「おいちょっと……っ」


言いたい事があったのに一方的に電話を切られた。
昨日も一昨日もたしか昨日の一昨年も、何かしら理由をつけて一緒に登下校するのを断られた気がする。

……いつも理由なくフラフラ遊び呆けてる奴が、急にこんな忙しくなることがあるか?あるわけない。
奴は俺を避けている。

でも何故だろうか。
冴が俺と帰らなくなったのは最近だけど、特に変わったことなんてなかったはずだ。


「彼女でもできたか……?」


冴はがたいもいいし顔も悪くない。
中身はともかくルックスだけなら文句なしに良い男だろう。


「…………まさかね」


想像して有り得ない、と首を振った。
なんせ心のイケメンである俺にだって彼女がいないのだ。
どんなに奴がイケメンであろうと、ガールフレンドどころかまともに友達も作れないわがまま男がいきなり彼女を作れるわけがない。この俺を差し置いて。

馬鹿なことを考えるのはよそう。
俺は重く息を吐くと携帯を閉じて家へ向かった。
1人で黙々と歩く最中、幾度となく冴のことが頭を過ぎった。


とにかく理由を知りたい。
冴が俺を避ける理由。



聞き出してやろうと意気込んだ次の日、冴は学校を休んだ。
次の日もそのまた次の日も、冴が学校に来ることはなかった。
音沙汰もないケータイをひたすら見つめる。

欠席理由を聞いただけなのに、あいつはいつになったら俺に連絡を寄越すんだろうか。
……それとも、もう俺とは連まないつもりなんだろうか。


「……ありえねーって……」


言いながらも、少しだけ残った不安が俺を動かした。
あいつが来ないなら自分から行けばいいんだ。

思い立ち、適当に服を見繕って俺は自宅を飛び出した。




「……いない?」

「えぇ……最近めっきり外泊が増えてて。
私、てっきりみっ君ちだと思ってたわ」

「そうですか……」


冴の家のチャイムを押す。
出迎えてくれた冴ママも冴の所在を知らないらしい。

諦めきれずにあいつの行きそうな場所を手当たり次第訪れたが……


「……だめだ、いない」


なんだか無性にやりきれなかった。
冴は家、クラス、廊下、どこだって俺のところへたどり着いていたのに、俺は冴のゆく宛てすらもわからない。


しょぼくれながら一人自宅への道を歩いている途中、なんと俺は偶然にも冴を見つけた。

入り込んだ通りに建っている怪しげなバーに入ろうとしている。
金髪でだらけた感じの服の着方をした男と一緒だ。
舎弟さんだろうか。


「冴!」

「溢!?」


呼びかけると、冴は驚愕したように俺を見た。


「なんでここに……」

「えー…………体力作りにランニング」


お前を探しにきたんだ、とは言えず、適当に理由をでっち上げる。
冴は鋭く俺を睨んだ。


「バカくせぇ理由で夜中に出歩くんじゃねーよ。中居、こいつ俺んちに置いてこい」

「はい」


中居と呼ばれた金髪の男が俺の腕を掴み歩き出す。


「ちょっ、と待てよっ」


慌てて腕を振り払い冴を振り返る。


「なんだ」


いつもの傲慢そうな態度。
それに加えて俺を拒む壁がある気がするのは気のせいか……?


「冴、お前は……」


聞け。
どうして冴は俺を避けているのかと。


「――っお前は自分ちに帰らないくせに説教なんてしてんなよっ!」


叫ぶと、俺はダッシュでその店を去った。
避けている理由なんて聞けない。
舎弟さんたちの側の方が楽しいから、なんて言われたら、俺は…………


家に帰り、ベッドに崩れるように倒れると、俺は呆気なく眠りについた。
色々と考え込んだことで、あまり優秀じゃない俺の頭は疲れてしまっていたんだろう。

朝、風呂を浴び終えて制服に袖を通しているとメールの着信がきた。

……冴だ!


『これからは1人で帰ってろ』


納得できない内容に、俺は速攻で冴に電話をかける。
まだ携帯は手元にあるだろうになかなか通話を押さない冴に不信感が募る。

そんなに徹底的に避けられてるのか……。

諦めて切ろうとする俺に、ようやくコール音が鳴り止んだ。
怒鳴ってやろうと息を吸い込む。


『もしもし、溢君だよね?』

「っへ!?」


電話から聞こえたのは、冴の声ではなかった。


『俺、昨日会った中居。今、冴さん寝てるから』


……今メール来たばっかりだっつうの。


「……起きたらかけ直させてもらえますか?」

『んー、最近冴さん忙しいからなあ』


ざけんな。
電話もできないほど忙しいなんてどんな用事だ。
連絡する気がないだけじゃないか。

無言になる俺に中居さんがくすりと笑う。


『溢君が冴さんに直接話すなら話は別だと思うけど』

「……あいつ昨日来るなって言ってたし」

『夜中に一人歩きはなぁ。
でも今回は朝だし、何より俺が迎えに行くし』


今から!?
てかわざわざ迎えにまで!?


「マジで言ってるんですか……」


渡りに船な話に、半信半疑で聞き返す。
仲居さんはもちろんと笑ってこたえてくれた。


『冴さんちの前で待っててくれる?8時に行くから』


押し通されて電話は切れた。
冴の家は俺の家の裏側にある。
徒歩で2分程、塀を越えれば30秒もかからないだろう。

俺はのんびりと支度をする。

出かける時間間際になって、制服はまずいと気がついて早急に私服に着替えるハメになった。


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あきゅろす。
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