Andante
到着4
結局菊岡さんが戻ってきたのは赤毛さんが帰ってかなりたった頃だった。
待ちくたびれて欠伸をする俺に、菊岡さんはごめんごめんと笑った。
「待たせちゃったね。なんかやたらと立て込んでてさぁ」
後ろに大人っぽさMAXのかっこいい男の人を引き連れている。
菊岡さんとは対照的に、知的で真面目な感じの人だ。
きっちり整えられた髪形とスッキリとした眼鏡が恐ろしいくらいに似合っている。
「この人が案内してくれるから」
菊岡さんがそう言って男の人の肩を叩くと、彼は表情を変えずに淡々と口を開いた。
「俺は鳳学。
寮の管理を任せられている」
短い挨拶が見た目通り、クールで大人っぽい印象を与える。
長身と無表情なせいか少し近寄りがたい雰囲気を感じた。
「氷柳錬です、よろしくお願いします! 」
気の利いたことなんて言えないし、とにかく笑顔で挨拶をした。
……正直な話、他に何を言えばいいのかが全く浮かばなかった。
菊岡さんとは違う大人らしい大人に少し気後れしてしまったのかも知れない。
ぺこりと下げた頭を戻して鳳さんの顔を窺う。
「ね!いい子でしょ!」
嬉しそうに笑う菊岡さんと相対して鳳さんは全くの無反応で、目線が合うやいなやすぐにフイと逸らされた。
鳳さんのその反応が気になったが、考える間もなく菊岡さんが「もー学ってば照れちゃって!!」とその肩をバシバシ叩いた。
「じゃあ錬君、理事長室まで学が連れて行くから、そのあと寮の案内をしてもらってね」
「わかりました」
よろしくお願いします、と鳳さんの方を見ると、彼はしばらく俺の顔を見つめた後、口を開くことなく俺に背を向け足を踏み出した。
……俺、特に嫌われるようなことしてないよね?
鳳さんは誰にでもこうなのかな?
愛想の感じられない対応にまじか、と思いつつ慌てて鳳さんを追いかける。
「あっじゃあ菊岡さん、ありがとうございましたっ」
「いえいえ、これから頑張ってね錬くんっ!いってらっしゃーい!!」
なんだか一生懸命俺たちに手を振る菊岡さん。
俺よりだいぶ年上の筈なのに、なんだかめちゃくちゃかわいいかった。
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