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Andante
いざ!

「いってきまーす」

「いってきます」

「…………」



三人そろって部屋を出る。
野球部のグラウンドの手前で慧と別れると、俺と時雨は悠々と校門へ歩き出した。



「部活が週4なんて羨ましいよな」


野球をしにグラウンドへ向かった慧を思って俺が言う。


「無休がキツいなら休んでも構わないぞ」

「……滅相もない」


週7の部活にちょくちょく入る東京選抜の練習。
時雨はこれに加えて毎日朝練をしているんだから俺が音を上げるわけにはいかない。


校門に着くと、外には既に車が待機していた。
今日は東京選抜の練習の日である。




「……で?一体どうしたんだ?」



魂の抜けきった俺を後目に、慧が時雨に問いかける。
時雨は沈みきった俺に同情の視線をよこした。


「監督に叱られていた。
ソワソワしすぎ、行動が遅い、最終的に頭冷やして来いってな」


俺は体操座りのままグッと体を抱き込む。


『氷柳君、コートから出て?』

監督に言われた決定的な言葉はこの一言だけなのに、あの恐ろしすぎる笑顔が忘れられない。
不穏分子がまた一つ増えてしまった。



「慧、俺どうしたらいいんだよぉ……」

「サッカーしないなら勉強すべきだと思うが」

「違う!そうゆうことじゃなくてもっと真に迫った問題が……!!」

「どうしようもないんじゃないか?」


きっぱりと言い切った慧に、俺はさらに深く沈み込んだ。


慧の献身的なお世話と時雨のスパルタ教育により、俺の夏休みはかつて無いほど充実したものとなった。
毎朝しっかり午前に起きて勉強するなんて俺にとってみれば優等生すぎる生活だ。

勉強とサッカーでわずかに残った時間を遊びに費やす。

そうこうしているうちに、気がつけば今日が夏休み最終日。
新しいクラスメイトと対面する時が目前に迫っているのだ……!


「でも、サッカー部の連中には昨日挨拶したんだろ?」

「っそうなんだよ!ここのサッカー部ってあんなに人数多いんだな……!」


今まで一緒に練習してたのは帰省しなかった熱心な奴だけで、蓋を開けてみればとんでもない規模の部活だった。


「ゆうに倍は居るんじゃないか」


さらりと言う時雨に慧も苦笑いした。


「サッカー部は強豪だし、なかなか美形揃いだからな。
イケメンがいれば女っぽいのがよってくるし、女っぽいのがいれば男が寄ってくるんだよ」

「なんて暑苦しい循環だ……!」


やめてくれ、と体を丸め込む。

扇風機がおざなりに体を冷やす空間の中、俺は少し冷汗をかいた。


「まあでもその前で自己紹介したんなら教室でするときはそれほど緊張しないんじゃないか?」

「そうだね、サッカー部での自己紹介が上手くいってたらもっと余裕もできたんだけどね……」

「……なにかあったのか?」


そういえば昨日の話はあまり詳しく聞いていなかったな、と慧がくるりと時雨の方を伺う。
時雨はそうだな、と目を伏せた。


「失敗と言うほどではない。
だが文節ごとに噛んで何言ってるかよくわからなかったな。視線も定まっていなかった」

「い、いやっ、だってどこ見ればいいかわからないじゃん!」


客観的に告げる時雨に思わず弁解してしまう。
どこを見ても目が合うものだから一点に絞っていられなかったんだ……!


「……そんな悩まなくても大丈夫だって……」


頭を抱える俺を慧が苦笑いしてなだめる。
この緊張感は当事者にしかわかるまい……。



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