Andante 7 茜色の空がゆっくりと暗くなっていく。 赤と藍の混ざりあう不思議でなだらかな空の下、俺は校門のすぐ側でそわそわと外を見つめていた。 今日は錬と会長が合宿から帰ってくる日だった。 出迎えていいものか正直悩んだ。 俺の親衛隊が動こうとしているなら、あの日のことを後悔するのはそう遠くない未来かも知れない。 けれど、やっぱり2人のことが気になってしょうがなくて、俺は気がつけばここまで来てしまっていたのだった。 わざわざ戻るのもおかしいと思い、俺は素直に2人を待つことにした。 2人は選抜に選ばれたのか? 怪我とかしてないだろうか…… あれこれ考える俺の視界に1台の車が映った。 「ただいまーっ!」 来た!と身構える俺のもとに元気な声が飛び込んできた。 「錬!」 言葉と同時に錬が勢いよく飛びついてくる。 「っおかえり錬」 元気そうで何よりだが全身泥だらけで傷だらけだ。 大丈夫なのかと心配する俺を余所に、錬は擦り傷の出来た顔をニコニコと緩めて叫んだ。 「受かった!俺も時雨も受かったぞっ!」 よっぽど嬉しかったのか、興奮気味にまくし立てる錬に、俺はよくやったと頭をぽんぽん叩いてやる。 後ろでは会長が車から降りてくるところだ。 「熱烈な再会だな」 「会長」 抱き合ったままだった俺たちを見てニヤりと笑い会長が言う。 先ほどまで思いきりはしゃいでいた錬が一変し、決まりの悪い顔で離れていって俺は思わず笑った。 数日ぶりに感じる、屈託なく笑う元気そうな声に、忙しなく動く眉、口、瞳。 それをからかう、唇を歪めた嫌みったらしい笑み。 それは俺をどうしようもなく安心させた。 「おかえり」 数日いないだけでこんなに寂しくなるものなんだな、なんて思いながら傷だらけの2人の荷物を奪い取る。 校舎へ向かう今になって、2人を出迎えるのは校舎近くの方がよかったなと後悔した。 校門から校舎まではだいぶ距離があるのに、合宿で疲れているであろう2人にその道のりを歩かせるのはキツいだろう。 「それでなー、時雨がわざわざ俺に向かってくるからボール奪ってやろうと思って身構えたら、いきなりパスしやがったんだぜ!? あれは絶対一騎打ちの雰囲気だったのに!」 「雰囲気なんてくだらないものでわざわざリスクを犯すはずがない」 ……まあ錬も会長も疲れなんて感じさせずに和気藹々と歩いているが。 「それにしても受かって良かったな、二人とも」 あらかた合宿の話を聞き終えて、俺は改めてそう思った。 東京は日本の中心部なだけありかなり曲者が多かったようで、2人とも選抜に生き残れたのは流石としか言いようがない。 「今回は正直自信あったんだ!」 笑いながら話す錬に、会長がほぅ、と口を吊り上げた。 疲れからか、いつもより顔が凶悪だ。 「去年も受かったから図に乗っているわけか」 「そうゆうわけじゃなくて! 俺ら三年だから後輩に負けるわけはいかないだろってこと!」 嫌みったらしい会長の言葉に自信満々で答える錬。会長がくくく、と笑う。 あまりの楽観論に、俺も思わず苦笑いだ。 サッカーをしているところを見たこともないのに『錬は受かるだろう』と思えたのは、この心の余裕のせいなんだろうか。 一人で過ごした3日間。 錬の帰りを待つ間、今の俺に何が出来るだろうと考えて、考えて。 結局答えは出なかった。 けれど、それでもいいのだと、錬の笑顔が教えてくれた気がした。 [*前へ] [戻る] |