Andante
衝突4
慧にまた今度大浴場に来ることを無理矢理約束させた後、俺たちは何事もなかったかのように風呂をあがった。
次こそは泡風呂に入って慧にぶっかけなければ!
「ほら、着替えるの遅いぞ慧」
「ほっとけっ!」
男同士なんだからパパッと着替えればいいのに、慧は変に上品に着替えるものだから俺だけ手持ち無沙汰だった。
特にすることもないので椅子に座って慧を見守る俺に、慧は居心地の悪そうな顔をした。
「…………あんま見んな」
顔が何となく赤い。
あらまー照れてますねこの子。
「だってものっそいヒマなんだもん」
「あー……体重でも計っとけば」
慧がん、とロッカー裏へ促した。
他にする事もないので大人しく体重計に向かう。
「よっし、ちょい増えた!」
喜んでいると、着替え終わった慧がこっちに歩いてくる。
あの分ならもうちょい掛かると思ってたけど、案外早かったな。
「何キロだった?」
「51」
慧が一瞬固まる。
……まぁ確かにちょっと少な目なんだけど。
聞いた話だと女子でこれくらいの体重らしい。
「お前、それはスポーツ選手として……いや、男としてもどうなんだ」
気を使え……!
この貧相な体に俺がどれだけ引け目を感じているか……!
「軽くてなにが悪いっ!
これでもフィジカルはあるからいいんだよ!」
「ふーん?」
慧が俺の腕を触る。
「……筋肉ねーぞー?」
言いながら俺の二の腕を摘む慧。アホか。
「サッカー部なんだから触るんなら足だろ」
「……………………だよな」
少し間をおいて、慧は屈み、俺のふくらはぎを押した。
「っ硬ってぇなおい!
おまえの足100%筋肉なんじゃねーの!?」
興奮したからか、だいぶ力強くふくらはぎに拳をぶつけ始めた。
堅いからって痛くない訳じゃないんだぞ……!
「現役サッカー部はみんなこんなもんだよ」
「でもすげぇよ……」
自分の筋肉と比較しながらすげぇすげぇと繰り返す慧。
こんなにはしゃがれるとは思わなかったぞ。
「いい加減はなせっての!
支度終わったならとっとと部屋戻るぞ」
だんだん照れくさくなってきて、慧の頭を叩く。
「わーったよ」
俺の声に含んだ羞恥に気がついたのか、慧が少し笑った。
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