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Andante
衝突3


「おい錬……!」


背中にかかる声を無視して湯船に入る。
俺が入ったのはいい匂いがするだけの普通の風呂だ。

他人から、しかも男からそういう対象に見られるなんてあるんだろうか。
俺には理解できないし受け入れがたい。
少なくとも俺は恋人だった圭吾すらそんな目で見たことがなかった。
体で繋がる行為に、一体何の意味があるというのか。
わからないし、気持ち悪い……。

思わず体に力が入った。
……1度だけ、そう言う意味で身の危険を感じたことがある。
そいつは衝動に任せて俺の体を組み伏せた。
そうしてひどく苦しげな顔で、泣きそうな目で俺を見下ろしていた。
それは未遂に終わったけれど、もし事が進められていてもお互いに傷つくだけで終わった気がする。



「…………錬」


遠い目をしてお湯に浸かっていると、慧が恐る恐るといった感じで話しかけてくる。
口を開いた慧を遮って、俺は慧に謝った。


「悪かったな。慧は心配してくれてただけなのに」


危機感の足りない俺に注意を促しただけなのだから本当は感謝しないとならない。
俺が謝ると慧は慌てたように首を振った。


「っいや、終わりっつってたのに話し続かせたのは俺だし!
もう言わねー。……けど、」


隣でお湯に浸かっている慧は心配そうな表情で俺を窺ってくる。


「安心しろよ、しばらくは慧から離れる気ないし、警戒も怠らないようにするから」


そう返せば、慧はやっと安心したように微笑んだ。


「ああ、そうしてくれ。
俺の目の届く範囲なら安全だしな」

「慧って喧嘩強いんだ?」

自信たっぷりに胸を叩く慧にそう聞くと、きょとんとした目で返された。


「したことねーよ?」


えっなにが安全?
2人揃ってピンチになるだけじゃないか?
思わずおいおいと言いたくなる。


「もしそういう輩に遭遇したらダッシュな!」


笑顔で親指をたてる慧。
脅すだけ脅して丸投げする慧の頭を、俺はわし掴んで湯船に沈めた。




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あきゅろす。
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