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Andante
衝突2


「まじでなんで大浴場なんか……」


慧がぶつぶつと嘆く。
俺に恨みをぶつけているのかそれとも思わず口を出た一人言なのか、微妙なところだ。


「今日だけだから耐えてくれって」


苦笑いしてなんとか慧を宥める。
エレベーターを降りて右、階段通り過ぎて……。
案内の張り紙があるから案外覚えやすいな。



「……1人で大浴場に行くのは許可しねーぞ」


また来れるように道を覚えている俺に、慧が低い声で釘を刺した。


「は!?なんで!」

「……トラウマ作りたくなかったらしばらくは自重しろ」


俺の抗議に対し、慧はわしわしと自分の髪をかくと適当にそう答えた。

そうこうしていると大浴場についた。
慧が中にはいるのに続いて俺も脱衣所にあがる。
本当に入るのか、と言いたげに慧が俺を窺ってくる。

「さっさと脱げって」


顎で促せば、慧はハア、とため息をついて服に手をかける。


「俺先に行ってるからな」

「あっおい……!」


未だに上半身しか脱いでない慧を置いて俺は一足先に浴場へ向かった。

風呂は予想通りの大規模だった。
大きさもそうだが、湯船の種類もいくつかある。
泡風呂もあるし、なんかお湯に薔薇が浮かんでるのもある。
あの小屋はたぶんサウナだろう。
その上、人もあまりいない。

いいタイミングに来たな。


「今日は泡風呂だっ」


んで、慧に泡めっちゃ飛ばしてやろう。


よーし、速攻で全身洗ったる!

俺が意気込んでいると、慧が入ってきて俺の隣のシャワーを陣取った。


「これは毎日来ないともったいないんじゃないか!?」

シャワーに負けない様に声を張り上げる。
慧は馬鹿言うな、と顔を顰めた。


「お前この学校での注意ちゃんと聞いてたか?」

「……親衛隊とか親衛隊持ちとかのやつだろ?ちゃんとわかってるって」


まずは頭から洗う。
…………このシャンプー、匂いが甘くて女子っぽいな。
いい香りとは思うけどなんか照れくさい気がするのは気のせいか……?


「…………お前はこの学園の危険さをわかってない。ぜんっぜんわかってない!」


呑気にシャンプーしている俺に慧が力説する。
目を閉じてるからわからないけど多分怖い顔をしてるんだろうな。


「ここはそもそも男子校だ。ホモが多いんだ。お前は背ぇ低いし多分危ないぞ」


……………………。


「安心しろ、明日にはお前よりでかくなってる」


ちなみに俺の身長は164pだ。
まだ伸びしろがある事を考えれば全然低くない。全然低くない。
慧は見たところ170あるかどうかといったところだ。
6p差なんて成長期の俺なら追い抜くのはたやすいと思う。


「馬鹿言うなアホ!結構真面目な話だぞ?お前……」

「シャンプー流すからたんま」


水の音で何も聞こえなくなる。
……背が低いだけで心配されるとは。
慧が過保護なのかそれともここの連中がよっぽど餓えてるのか。
どっちもかもしれない。
なかなか学校の外に出る機会がないみたいだし。


「お前、悪くない顔してるし油断してっとまじで襲われるぞ」


シャンプーを流し終えた慧が言う。


「……中学生の分際で何言ってんだ」


ボディを洗いながら言う。
マセすぎだろここの生徒。


「……俺、小6の時に童貞じゃなくなった先輩知ってるけど」

「……その先輩頭おかしいって絶対。てか襲われたらその相手ぶっ飛ばすし、それでいいだろ」


喧嘩はしたことないけど足には自信がある。

筋肉も体力もある方だし、俺ってそこそこ強いんじゃないか?


「複数だったらどうすんだ」


慧の物騒な発言に思わず体が軋む。
あーやだやだそんな異常事態考えたくもない!


「もうこの話おしまいな。
それより早く体洗えよ慧!俺もうすぐ終わるぞー」


一方的に切り捨てて顔を洗う。


「話を逸らすな」

「その話は終わりだっつってんだろーが」


この手の話をすると言いようのない不快感が襲ってくる。
もう勘弁してくれ。
泡を流して蛇口を止めると、俺は慧から逃げるように湯船に向かった。



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あきゅろす。
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