[携帯モード] [URL送信]

Andante
衝突


話している内にいつのまにか時刻は9時を過ぎていた。


「そろそろ風呂行こうぜ風呂」


楽しみだなぁ。
泳げるぐらい広いぞ、絶対。

だが、そんな俺の期待を慧はぶち壊す。


「何言ってんだ?大浴場なんて行かないぞ?」

「……は?」


きょとんとしている俺に、慧は一言。


「部屋にある風呂に入れ」


……いやいやいや。


「なに言ってんだお前!でかい風呂があんのにわざわざ小さい方に入るとかもったいない!絶対もったいない!
何のための大浴場だよーっ!」


てゆうかどれくらいでかいのかも気になるしどうしても大浴場に行きたい……これは絶対譲れない……!


「ほら、早く準備しろって!」

「っおい、れん……」

「はーやーくー!!」


慧の背中を力いっぱい押して部屋へ追い立てる。
慧がもごもごとなにか言ってきたが俺はすべてスルーした。

結局折れて支度を始めた慧だったけど、荷物を取りに部屋に戻った時の顔を見たらさすがの俺も少し反省した。
絶対行きたくないけど俺の大浴場への執着心にビビって逆らえない感じの複雑な顔だった。

ごめん慧、ちゃんと一回で道覚えるから許してね……!

そんなことを思いながら俺も部屋に入る。
さっき少し整理した甲斐もあり、目当てのものはすぐ見つかった。
バスタオル、着替え、それらを適当な袋に入れて部屋を出た。

が、慧はまだ部屋の中のようだ。
しばらく待っていると慧は浮かない表情で部屋から出てきた。
俺はその顔を見て絶句した。

…………お兄さん、目が死んでますよ?

しかも、ただの死んだ目じゃないぞ。
悲壮感と絶望がありありと感じられる、かなり死んでいる目なんだ……!


「………………頼むから早くあがってくれよ」


靴を履きながらぼそりと慧が言う。
よっぽど大浴場が嫌らしい。
剃れでも付き合ってくれる慧に感謝しながら、俺は心の中で慧にごめんねと繰り返した。
口には出さない。
だってなら止めようって言われたら困るから。

そうして暗い慧を横目に、俺はウキウキと大浴場へと向かったのだった。



[*前へ][次へ#]

23/28ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!