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Andante
進展3


鳳さんと笑顔で別れられたのはよかったけど、俺は肝心な所を聞き逃してしまっていた。


「俺って何号室だっけ……?」


これじゃあどこが自室かわからない。
でも、鳳さんのところへ戻るのもなぁ……。


「……誰かいるかなあ……」


適当に廊下を歩いてみるが、広い廊下には人っ子一人見当たらない。
510から519の表示を見つけたけれど、どれが俺の部屋かは知る術がなかった。

……………さぁ、これからどうしよう。

為す術ももなく、俺はその場に座り込んだ。


「はぁ…………」


もう打つ手なし。
諦めて人が来るのを待とう。

そう思いしゃがみ込んだ俺に、誰かが声をかけてきた。


「お前、だいじょぶか?」


どうやら具合が悪いと勘違いされたらしい。


「問題ないよ」


立ち上がって相手を窺う。

そいつは結構なイケメン君だった。
少し垂れ目で、自然な茶髪を立てている。
気だるげなその雰囲気は色気的なものを感じさせるようだった。


「……なんであそこで屈んでたんだ?」


垂れ目君は不思議そうに俺を見て尋ねる。
取り繕ってもあれなので、俺は少し恥ずかしかったが正直に答えた。


「実は迷子なんだ」

「…………は?」


俺の言葉に彼は困惑しているようだった。
見たことない顔なんだから新入りかもとかいう発想はないのだろうか。
あからさまに怪訝な顔をする垂れ目君を少し疑問に思う。


「あの、俺今日転入してきて……」

「お前、氷柳錬じゃないのか?」

「俺は氷柳錬だけど……?」


垂れ目君と俺は顔を見合わせて首をひねった。
お互いわけがわからないって顔してる。


「……自分の部屋に入ればいいじゃんか」


簡単に言ってくれるなよ。


「今遭難中!どれが自分の部屋かわかんないし!」


必死に主張する俺に垂れ目君はきょとりと目を瞬かせた。
ほんとに自分の馬鹿さ加減には呆れてしまう。
けれどこれでなんとか事情は伝わったんじゃないだろうか。
俺がどこの部屋か知っていると良いけど。


「お前本気で迷ってたのか……」

「………………」


可哀想なものを見る目で言ってくる垂れ目に俺は黙って口を閉じた。
そこはかとなく心が傷ついた気がする。


「悪いけど俺が入る予定の部屋、どこだか知らない?」


気を取り直して尋ねる俺に、たれ目君が頭をかいてス、と指を指した。


「お前の持ってるそれを見れば一目瞭然だと思うけど」

「……あっそうか!カードキー!」


お金の代わりだと思ってたけどキーってくらいだから鍵なのか!
よく見てみれば、というか普通に表面に513と部屋番号が書かれている。
まじで盲点。


「お前やばいな」


ニヤリと意地悪く笑いながら垂れ目君が言った。
なんて失礼な奴……!
だけど自分でもやばいなって思ったから何も言い返せなかった。


「……あれ?513……?」


なんとなく覚えのある数字だ。
ぽつりと口に出せば、目の前の垂れ目君がプッと笑い声を漏らした。
まさかと思い俺は自分のもたれていた壁を見上げる。


「なんで入らないのか本気で不思議だった」


俺は自分の部屋の前で迷子になっていたのだった。
俺は思わず顔を覆った。
垂れ目君があんなに怪訝そうだったのも頷ける。


「あの、ごめんなそそっかしくて……。助かったわありがとう……」


居たたまれなくてすぐに部屋の中に逃げはいる。
そのままドアを閉めようとしたが、なぜかその垂れ目君が腕でそれを留めた。


「あの……?」


戸惑う俺に垂れ目君はニコリと、その日1番の笑顔を見せた。


「俺もここの部屋」

「え」

「藤堂慧。よろしく」


俺は絶句した。
偶然ってすごい。


「まあ、とにかく部屋行こうぜ。
そんで話そう、片付け手伝うし」


固まる俺の肩を叩きすばやく話を切り上げると、ついてこいよとたれ目君もとい藤堂は歩き出す。
こうして、俺の自室探索は無事、終了した。

最初は驚いたけどいい人そうだな、藤堂。
同じ部屋とかラッキーだ。

俺は言葉に言い表せないくらいの安心感を抱いた。
もう安心を通り越して感動すらしてた気がする。
さっきまでの俺はそれぐらい心細かったのだ。


さて、部屋の中はやはり綺麗で広い。
個人部屋もそれなりのスペースがあり、これなら二段ベッドにするだけで4人部屋として充分に機能するだろう。
なにより家具がおしゃれだ。これが生徒分あるんだから本当に規格外だと思う。


「すげえ豪華!」

「そうか?
別に普通だと思うぞ?」

「……お前におれんち見せてやりたい!」

「えっなんでだよ!」


お前の普通は俺の遙か上にあるんだって一目でわかるはずだ。
驚いたような藤堂の声を背中に受けつつ自分の部屋に足を踏み入れた。
これは掃除が大変そうだ。
なんたってらその部屋は昨日までの俺の部屋より広かった。
ただ、今はそのスペースのほとんどをダンボールと元々あった家具に占領されているが。


俺の部屋にあった使えないものを除いたあらゆる荷物を詰め込んだら、ダンボールは大きいのから中ぐらいまで、たっぷり10個くらいになった。

それらがみんな、ぶつからないように自分の場所を陣取っている。

それプラス窓際の左に小綺麗なクローゼット。

ドアの正面ら辺にはベッドがあって、これがまたでかい。
おそらくシングルではないだろう。

まぁ寝相のいい俺には無意味だがな!


「結構荷物多いな、お前。とっとと片付けるか!!」


めっちゃ手伝う気満々の藤堂。
……こいつ、きっとお人好しだ。

なんかあったら頼りにさせてもらおう。
そう決めた瞬間だった。

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