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Andante
理事長2


自分の置かれた立場にどうすればよいかわからず狼狽えることしか出来ない。
蒼い顔で思案に更ける俺に理事長が苦笑いした。


「そんなに思い悩まなくても。
だいじょうぶ、裏口入学くらい誰でもやってるって」

「そんなこと言って今までやってなかったじゃないですか!」


てゆうかみんなやってるとかそう言う問題じゃない。


「えってかほんとに裏口?なんでこの学校入れたの俺……」


どうしてこんなことになったのかわからず混乱する俺に、理事長は更なる爆弾を落とす。


「弟から頼まれちゃったんだよ。俺の息子をよろしくって」


……弟?息子?


「弟って…………親父?」

「うん」


にこやわかに笑う理事長は、正直父さんとは似ても似つかない。


「まじで言ってます?」

「もちろん」


理事長と身内って!
こんな大金持ちと身内って!
てか父さんに兄妹いるって初耳だし!
展開が強引すぎてさすがに冗談だと勘付いた。

転入したばかりで何も知らない俺に色々吹きこんでくれたキツネさんに軽く鋭い目を向ける。
理事長はそんな不遜な視線にも笑顔で返してくれた。
……うん、やっぱりいい人。


「父さんと理事長、なーんか似てませんよね?」


もうあなたの冗談は気づいてますよってことを含ませて言う。
しかし驚いたことに理事長が叔父と言うのは冗談ではなかったらしい。
理事長はさらりと、何でもないことのように新たな事実を告げた。


「まあ腹違いだからねぇ。結構複雑なんだよ僕ら」


笑顔でなんてこと言うんだ理事長。
あっけらかんという様子の彼にちょっと顔が引きつる。
父さんと理事長は昼ドラのようにドロドロな間柄なのだろうか。
俺としてはだいぶ気になる発言だったが、知るのが怖くて深追いは止めた。


「それにしても本当に覚えてないんだねぇ」


ちょっと寂しそうに笑う理事長。

…………え?


「前に会ったことあるんですか?」


理事長って結構印象的な人だけどそんな記憶ないぞ?


「ほんとに昔だけどね」


昔を懐かしむように、優しく、本当に優しく微笑む理事長に思わず心臓がはねた。
薄く開いた切れ長の目に、改めてこの人は美人だと認識する。


「君がまだハイハイしてた頃、君を4日間くらい預かったんだよ」

「……会ったのって……」

「そのときだけだよ。
かわいかったなぁあの時の錬君。
僕が動く度に後ろを必死に着いてきてさー」


うっとりとその頃を思い返している理事長に、俺は力なく笑った。


「そりゃあ覚えてないですよー……」


ハイハイしてるときのことすら記憶にないのに、そのうちの4日間なんて覚えてるはずがない。
当たり前だと言い捨てる俺に、理事長はへなりと眉を下げた。


「えー?僕は君が帰った日からずーっと、また会いたいなあって思ってたのに……」


なんでそんな悲しそうな顔してんの!?

めっちゃ罪悪感……
いや俺絶対悪くないけどね!?



「こ、子供だから仕方ないですって!
もう忘れませんよ!」

「……そうだよね」


必死に弁解をすると、理事長はぱあっと顔を輝かせ嬉々とした笑顔を浮かべた
……そうあからさまに喜ばれるとなんか照れるよね、うん。

気恥ずかしさに俺は視線をそらした。
それでもニコニコと俺を眺める理事長の視線はやまない。
羞恥心に耐えていると、部屋の時計が時刻を告げる音を鳴らした。
時計の音を聞き、照れて機能しなかった脳が不意に鳳さんのことを思い出す。

そーだよ、待たせてるんだから早く帰んないと。



「あの、他に説明って何かありますか?」

「うん、それはもう終わりでいいや。
けど、せっかく来たんだからもうちょっと話してこうよ」


俺が帰ろうとしたのを察したのか、理事長がそう言ってきた。
おかわり注ぐよ、とティーカップに目線を向けている。


「鳳さんが待ってるので今日はやめときます」

「わかった」


意外とあっさり返事をした理事長にあれ、と目を向ける。
理事長は俺の視線を受けてにこりと笑みを深めた。


「じゃあ次はいつ来てくれる?」

「へ?」

「その日を楽しみにして仕事するから」

「え〜……いつだろ……」


そんなこと言われても……と思いながら、ねえねえいつ?と子供みたいに聞いてくる理事長にたじたじと目線を逸らす。
返事を返さない俺に、理事長がしびれを切らしてこう言った。


「錬君が来てくれないなら僕が行っちゃうからね?」

「ええ!?」


驚いている内にコンコンとドアが鳴り、鳳さんが姿を現した。
無言で一礼した鳳さんに手を上げて答えると、理事長は僕の頭にポンと手をのせた。


「ざーんねん。約束は出来なかったけど、好きなときでいいから、また会いに来てね」


にっこり笑う理事長は、果たしてからかっているのかそれとも素なのだろうか。


「ありがとうございます。また、遊びに来ますね」


わからなかったけど、また話したいと思ったのは本当だ。
色々なことに驚いたけど、理事長が仲良くしてくれたことがすごく嬉しかった。

次に会ったときは何を話そうかな。

歓迎してくれる人がいて、なんだか、この学園でもうまくやっていけそうな気がした。


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あきゅろす。
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