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Andante
三日目


「……おい錬、お前顔が強張ってるぞ」

「だ、だって……」


文化祭が始まる随分前から、もうお客さんは学園に押し掛けていた。
予想外の来校者。
この人数に俺の痴態を見られると思うと……


「い、委員長、仕事変わろう〜!」

「……いいですよ」


えっと顔を上げる。
委員長はとても綺麗に微笑んでいた。


「ただし服は私に脱がさせてくださいね。その過程であらぬ場所に触れてしまうこともあるかも知れませんが他言無用ですよ」


にじり寄ってくる委員長を慧が手早くインターセプトする。


「委員長に話振ったらどうなるかいい加減学べよ……」

「はい……」



おかげで緊張がほぐれた……とは思えないけど。
藤咲君と一緒に衣装も改良して、バッチリ気合は入れてきたんだ!
今日はもうとにかく頑張ろう!



「あれ?なんかバージョンアップしたー?」


初日の学内公開では単品だけ頼んでちょくちょくセクハラを仕掛けてきた質の悪い客だっだったサッカー部員達も、今日はちゃんとセットを頼んで俺を休ませてくれた。


「おう!藤咲の助言で、ポニーテールからお団子に」


それともう1個。
改善点があるんだけど……それは墓まで持って行くつもりでいる。


「うんうん、いい感じ。前より触り甲斐がある」

「そういう店じゃねえ……っ」


茨田飢えすぎだろ……!



「てゆうかさ、みんな出し物は?今日は午後部活の出し物があるから、午前は忙しいんじゃ……」


尋ねると、茨田達は互いに顔を見合わせた。


「俺達のところは、企画して手はずを整えたらそれで終わりだから。
人手もいらないし、初日にちょっと確認したらそれで終わり〜」

「俺んところもそんな感じ」

「俺はひたすら裏方の仕事やったから当日は任せてある」

「へ〜」


そういうのもありなのか。


「ちなみになにをやってるんだ?」



「マッサージ店(マッサージするのは業者)」

「映画館(出入り自由で映像ほぼ垂れ流し)」

「射的屋(制作したものは看板のみ)」


……俺のところも料理はかなり業者の力に頼ってるらしいけど、それでもかなり働いている部類のようだ。
なんたって運搬は自力である。


「それにしても、なんか騒がしくなったか?」

「そうだな、混み具合は変わらないけど、なんかザワザワ感が……」


受付係が挙動不審な気もする。


「予想以上に並んでるのかもな。
申し訳ありませんお客様、お時間ですのでテイクアウトにさせていただきます」


混み対策として砂時計を設置してて正解だった。
砂の落ちきった時計を確認し、料理をパックに入れていく。


「錬、最後に」

「ん?」

「それあーんてやって」


何言ってんだと思いつつ、めんどくさいので黙ってトマトを茨田の口に運んでやった。


「ん、いい記念になったな!」

「ありがとうございましたお客様。
サッカー頑張ろうなー」


茨田達が使っていた席を拭き、新しい客を迎え入れる。

ちなみに指名の入ってないウェイター、つまり今の俺の仕事は、空き皿を回収したり、砂時計の様子を見たり、他のみんなの仕事を手伝ったりだ。

席が空かない限り、取り立てて急がなければならない仕事はない。

俺は教室の入り口の近くに佇んで、満席になった様子を眺めていた。


「……なんか外が騒がしいけど、さっきなにかあった?」


受付係のカウボーイに尋ねると、彼はほんのりと顔を染めて答えた。


「えっと、会長様が並んだみたいで。役員の方々も一緒に」

「え」

「だから今、行列がピークみたい」


疲れた顔で笑う彼。
ちらりと外を窺ってみると、確かにすごい人だかり。
並んでいる、というより詰まっているように見える。


「あんなに待たせてるのに、のんびりしてるのもなんか申し訳ないな……」


とは言っても席がないからどうしようもないんだけど。



「これはチャンスですよ」

「い、委員長……て何その格好!?」


スッと教室に入って来た委員長。
切れ長の瞳が喜色を浮かべている。


「この集客数ならグランプリを狙えるかも知れません」

「ねえ待ってよなんでそんな格好なの!?」


委員長は鎧を着ていた。
三国志を思い出すような重い暗い色の鎧だ。
それは一体どの層の受けを狙った格好なのか。


「私も接客に回るんですよ……。あの行列、あのまま待たせてたんじゃ去っていく人も増えますからね」


手伝ってください、と委員長は手に持っていたバスケットを俺に手渡した。


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あきゅろす。
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