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Andante
話し合い3

そんなこんなで明くる日の放課後、衣装合わせの集合場所である多目的室に行った。

こういうときの為になのかは知らないが、多目的室は階ごとに設置してあるらしい。
ちなみに5階にある一番広い多目的室にはお化け屋敷部屋という別名があるそうだ。


「もっ森山ーーっ!!」


ガラリと多目的室のドアを開ければデーンと森山のミニスカメイド姿が映った。
厳つい男が小柄な男に化粧を施される光景は正直辛いものがあるのだが、男子校にいればいつかは慣れるものなのだろうか。
慧やみんなはとんでもない森山の体たらくにも動じていない。


「遅いですよ、早く着替えなさい」


顔面蒼白の俺に委員長が寄ってきてパサリと衣装を手渡してきた。

実物を見ると予想以上にクオリティが高い……。
更衣室の中でまじまじと衣装を眺めながらそんな事を考える。
うまく着れるかななんて思いながらシャツを脱いでいる途中、何者かによってシャッとカーテンが開けられた。


「まだ着替えてるって!」

「着せてあげようかと思いまして。
……氷柳君、あなた毛を剃りました?」

「はあっ!?」


侵入者に慌てて抗議するが無駄だった。
聞く耳持たない委員長はしれっとした顔で俺の腕を掴むと、悪魔のような笑みでとんでもないことを言い出した。


「剃ってないんですか?じゃあ私が剃ってさしあげましょうね……」

「勘弁してくださいっ!勘弁してくださいっ!」


俺は委員長の手から逃れようと全力で暴れた。
渾身の力で委員長を更衣室から押し出すと、残念です、と声を漏らす委員長の鼻先で勢いよくカーテンを締め切った。

俺は恐怖や焦りで息を荒げながら、のそのそと浴衣のワンピースを羽織った。



「……ねえこの帯長いけどどうやるの?リボン結び?」


出きるところまで着替えたところで、どうにでもなれ、と思いながら更衣室を出る。
間の悪いことに、化粧を終えた森山が真っ正面から俺を見ていた。


「いやー錬でもやっぱゴツいわ〜!
美脚だけど女の子じゃないな、女装少年!」

「言っとくけど森山もだからな!お前もスカートはいてるのに一層男臭いからな!」


ゲラゲラ笑いながら指を指す森男に俺はガァッと言い返す。
せめてカツラと眼鏡とマスクが欲しい。
この顔と服の組み合わせを見られたくない。


「大丈夫です、森よりも遥かにあなたの方が似合ってますからね。
そもそも女のような男が女装してもそそられる要素がないじゃないですか」

「委員長もうやめて!
てゆうか大柄な森山の方が悲惨なのは当たり前だから!」

「悲惨って言うな」


委員長はうっとりとした表情で俺の横に立ち太ももを触っている。
委員長のこの目はほんとにぞっとするくらい苦手だ。
力尽くでも退かしたいけど線の細い委員長を蹴るわけにも行かず、俺は速やかに彼から後ずさった。
こういうときに限って慧は衣装合わせで場にいないなんて。


「離れたら帯が巻けませんよ」

「じゃあ巻かなくていいよ!
あのなあ、着たくて着てるんじゃないんだからな!」


つーかこれが帯を巻くって状況か!?
俺は必死になって叫んだ。
帯があった方が小柄に見えて可愛いですよ、なんて言ってきたけどそんなこと言われたって巻きたくなるわけないだろうが。


「委員長、帯……。
こっちのほうがいい色かなって……」


藤咲君は紫の淡い帯を持って委員長のもとへ近づいていく。


「ふ、藤咲君!巻き方わかるなら君にやってもらっていい!?」


無害そうな藤咲君の登場に俺は救いが来た!とばかりに声を上げた。

藤咲君はそんな大音量に驚いたのかビクッと肩を揺らして俺と委員長の顔を見比べる。
俺は問答無用で藤咲君をこっちに引っ張り寄せた。


「あいつにやらせたらスカート丈変えられちゃう……」


切羽詰まって頼めば、藤咲君はおどおどしながらも頷いて、俺の腰に腕を回し帯を巻き始めた。


「……苦しくない……?」

「あんまり」

「もっとキュッと、やって平気……?」

「大丈夫……って加減があるよ藤咲く……!」


グッと腹を締め付けられ抗議すると、藤咲君はぼそりと言った。


「……終わった……」


このきつさのまま衣装撮影になりそうだ。



「おっ錬着替え終わったのか……てうわー……」



暑そうな軍服に着替えた慧は、俺のごついミニ浴衣姿を見て痛ましい声を上げた。


「…………」

「泣かないで錬花ちゃん」

「森子お姉さま……!」


自らこんな茶番繰り広げておいてなんだけど、この絵面を見せつけられた慧には心底同情する。




「……では、本番も頼みますよ」


みんなの衣装を合わせ写真を取り終えたところで委員長はようやく解散を宣言した。


「藤咲君、帯ありがとね。君が持ってきたの?」

「……衣装作ったの、俺のところだから……」

「え!?すごいねえ」


感心していると、藤咲君はどこか居心地悪そうだった。
やっぱりまだ俺に馴れていないんだろう。


「藤咲君、当日も帯任せていいかな?」

「……うん」

「ありがと!よろしく頼むな」


約束を取り付けて俺は慧と一緒に部屋に戻った。


「錬、この後部活に出るのか?」

「えーと……」


衣装合わせが案外早く終わったから、あと1時間くらいは参加できる。


「……いや、今日はいいや……」

「珍しいこともあるもんだな」


慧が眉を上げてこちらを窺った。
俺は肩を落としながら慧に事情を話す。


「時雨が来ないから見物も減ったはずなんだけど……なんか最近見られてるんだよね……」

「会長の親衛隊に?」

「いや、その辺りはわからないけど……」


でも思い当たる節があるのは時雨の親衛隊隊長、赤石君だけだ。
プレッシャーを与え続ける彼の視線を思い出して、俺は思わずプルプルとみをふるわせた。



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あきゅろす。
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