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Andante
一日目

そしてとうとう文化祭当日を迎えた。
今日は俺達中等部の校内発表の日だ。

無駄に広かった校舎も大きな飾りのせいでだいぶスペースが減っている。
準備を急ぐ人達の波に飲まれないようにクラスで団結して多目的室へたどり着いた。


「所詮今日はお遊び。
気負わず接客のコツだけは掴んでくださいね」


そうだけ告げて、さあ着替えてくださいと委員長が試着室へ促す。


「……あ。藤咲君、パッと着てくるから待っててね」


帯のためソワソワと傍らに佇んだ藤咲君の存在に気づき、俺は慌てて更衣室へ駆け込んだ。



「……終わったよ」


昨日の無茶な締め具合とは変わって今日はちょっと緩めたいかなくらいだ。
藤咲君は調節がうまいなあ。


「ありがとう藤咲君。
……かわいい?」

「ぇ!?、あ、……ぁ、」


冗談めかした発言に藤咲君は顔を赤く染めた。


「そんだけ照れてくれてるんだからいい感じみたいだねー」


俺は被されたポニーテールのウィッグを揺らして笑う。
藤咲君はガクガクと繰り返し頷いた。
なんてかわいい子だろう。


「昨日とは見違えるなー」

「森山」

「ギリギリ女の子に見える。体育会系の」

「ありがとうおかまのお姉さま」


やっぱり髪型とか化粧で誤魔化せるもんなんだなあ。
森山みたくごついのはさすがに別みたいだけど。


「ポニーテールも似合いますが……私はそのままの錬君が好きですよ」

「……委員長の性癖って謎だわ」


鏡を覗きこんでいるところに委員長がやってきて、俺はそそくさと慧の側に逃げ込む。


「おー!慧かっこいい〜」


部下がいそう。
これはファンタジーが好きな女子が喜ぶなあ、なんて思いながら手をたたけば、慧は顔を真っ赤にしてしまった。


「……なんか、もろコスプレって感じがして……」

「だってコスプレ喫茶だもん。開き直るしかない!」


恥ずかしそうに帽子を直す慧に力強く言う。
そんな格好して、女装の俺より恥ずかしがるなんて贅沢すぎるぞ。

俺だって恥ずかしいけど、そういう役割になってしまった以上きっちりやりきってやる!


「錬君、よく言いました」

「ひっ」


後ろからポンと委員長が肩をたたいてきた。
もう背後にいられるだけで怖い。


「頑張ってお客様にご奉仕してくださいね。
……さあ、教室へ。もうすぐ始まります」


にっこりと促す委員長。
俺はなんだか緊張しながら多目的室を後にした。


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あきゅろす。
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