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Andante
襲来



「A組の明石純平ってゆうの、よろしくね」


にっこりと笑う明石君。


「…………よろしく」


彼はたしか時雨の親衛隊だったはずだ。
夏休みの時食堂帰りにすれ違った美少年。
忠告?警告?まさか早速制裁はないよな?

混乱する俺を余所に、人のいない教室をわざとらしく見回して明石君はクスリと笑う。


「友達に会いに来たんだけどいないみたいだねぇ。
代わりにお話、付き合ってくれる?」


明石君を見つめるだけの俺を気に留めず彼は話を続けた。


「なんのお話がいいかなあ……」


明石君がじぃ、と俺を見据える。
絡み合う視線を逸らさないままで明石君はスッと目を細め微笑んだ。


「そうだ、サッカーのお話にしようか」


……最初っからその話をしにきたんじゃないのか?
ギラリと輝いた目を見逃さず俺はそう思った。


「噂でね、流れてるんだよ、サッカー部にすごいやつが入ったって。
みんな興味津々でサッカーのコート見に行ってるみたい」


……悪目立ちしてるってことを警告しにきた?


「羨ましいよ、サッカーが上手で。
僕は球技苦手なんだあ」


にこやかに笑う明石君。どういうつもりなのかがわからない。
パッと見悪意は感じられないけれど……。



「ねえ、氷柳君はどうしてサッカー部にはいったの?」

「え?」


思ってた以上に遠回しに詮索するんだな……。

戸惑って彼を伺っても、ただニコニコと笑って返事を促されるだけだった。
俺は間を開けて口を開いた。
思い浮かぶのは憎たらしいほど自信たっぷりの笑顔。


「……勝ちたい人がいるから」


幼い俺はどうしてもその驕りを壊してやりたかった。
身近にいる絶対的な存在に圧倒されたくなかった。


「勝てそう?」

「無理!」


尋ねる明石君に俺は開き直って答えた。
表情の変わった俺を明石君は黙ったまま見つめる。


「たまに見るとやっぱり上手いなって思うし見る度磨きかかってる。
俺が入り口でくすぶってる間にあいつは頂上争い参加しちゃってるし……。
全然適わないけど、勝てなくてもサッカーは楽しいんだからそれでもいいんだ、今は」


俺はがむしゃらに上に食らいついていればいい。
その経験が俺を更に高みへと押し上げてくれるはずだから。


饒舌になった俺に、明石はやや間を置いてサッカー好きなんだねと呟いた。



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