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ギミックボーイ
プロローグ


何の変哲もない高校生の俺が、何故女装などしているのか。


しかも、姉に「カワイイー!」とか言われながら髪を結ばれてる。


トチ狂ったのか、この格好で学校に行けと言ってくる姉は何だ。悪魔なのか。私服登校できる高校に通ってはいるけど、だから大丈夫ってことにはならんだろうが。そもそもが男子校に行ってんだから目立つだろ。あり得ないだろ!俺には拷問としか考えられない。


終いには「慶介とアンタの為よ」とか言い出すし。慶介が女装好きみたいな言い方するなよ、親友がケガれるわ。てか慶介をエサにしてまで俺に女装させる意味ってあんのかよ。


姉に聞いてみたが、何だ「行けばわかる」って。いやいや答えになってねーし。



「ねーちゃん、俺嫌だからな!」


「だぁーめ……。異論は認めないわよ」


異様に低い声で姉は言った。俺の後頭部から殺気を感じる。髪をとかされてて姉の顔は見えないが、きっともの凄い顔で睨まれているに違いない。


俺は姉に逆らえない。女のクセに柔道部の部長なんてやってるもんだから、逆らったりしたら自分にどんな結末がやってくるかが容易に想像できてしまう。


「でーきたっ!」


5分ほど経っただろうか。女装が完成してしまったらしい。ほら鏡、と姉ならぬ悪魔が嬉しそうに手鏡を渡してくる。


ああー見たくない。
ムサい男の女装とかあり得ねぇから。


とは言えないチキンな俺は、イヤイヤ鏡を受け取り、覗き込んでみる。


そこに映っていたのは……普通にかわいい女子だった。


「うげぇ……」


これは俺なのか。ツインテールの髪はきっとカツラなんだろう。


考えたくないが、本当に女子にしか見えない。長年のコンプレックスだったオンナ顏が完全に裏目に出ている。


我ながら……気持ち悪い。男のクセにこんな……。



怒りで姉をじっとりと睨みつけると、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。



こンの……悪魔め!!



「えぇい、こんなの取ってやる!」


もう姉に殺されたって構わない。俺はカツラをむんずと握りしめる。


その瞬間、ポッポーと場違いな鳩時計が鳴った。


「あ……」


ヤバい、8時になったらしい。


もう家を出なきゃ遅刻する時間になっていた。女装をとってる時間もない。


「ってことは」


つぶやくと、姉のニヤニヤ笑いがさらに顔いっぱいに広がる。



そうか。今日はこのまま登校しなきゃいけないのか……。



「最悪だ……」


絶望していると、悪魔は「遅刻するわよおー?」と催促してくる。お前のせいで遅刻しかけてるんだけど。


「クソ姉貴……」


無性に死にたくなったが、まぁ女装なんて駅のトイレとかで落としていけばいいか、と思った。でも「あ、もし帰ってきたときに女装とってたら……わかるわよね?」という言葉に打破されてしまう。


「ああもうっ!いって来ますよバカヤロー!!」


叫びながら泣きながら、俺は家を飛び出した。


「いってらっしゃーい!慶介くんと頑張るのよ!」


姉がそう叫んだ。


なんだよ2人で頑張るって。この姿で1日耐えることをか?……そんな、姉のイタズラ如きで慶介に迷惑かけられるはずないじゃないか!俺がそう思うのわかってて2人で頑張れとか言ってんのか!?


……いいさ、今日1日、1人でこの羞恥を耐え抜いてやる!


走りながらそう決心した。








……決心、したんだけどなぁ。




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あきゅろす。
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