novel
紫煙(中→仏/甘め)
珍しくヤオに夕食に誘われ、訪問すると、家主は不機嫌そうに窓際でパイプ煙草をふかしていた。
「うわっなにこの部屋?すっごく煙たいんだけど?!窓くらい開けなよー;」
繊細なワインの風味や、フレンチに使うフレーバーの細やかな味わいを感じ取らなければならないフランシスは味覚が狂うと困ると言い、滅多にタバコを吸わない。
「遅かたあるな。ま、遠路遥々よくきたある。休憩がてら一服どーある?さ、我の隣に早く座るよろし。」
ぽふぽふ、と隣の椅子を叩いて呼び寄せる。
(煙たいのは臭いがついちゃうから遠慮したいんだけどなぁ…)
と思いつつ、大人しくすとん、とビロードの椅子に腰掛け、ヤオから葉巻を受けとる。
「そろそろヤオも禁煙した方がいいんじゃない?世界の35%の喫煙者がヤオんちなんでしょ?世界的にも禁煙の流れなんだし、止めた方がいいよ。」
折角なので葉巻に火をつけ、つい一言いってしまう。
すると、ムッとした表情のヤオがこちらに顔をぐっと近付けてきたかと思えば、フランシスの鼻先にフゥーっと煙を吹き掛けた。
「Σ?!げほっごほっ!なにすんだよ!!」
煙が目に染みて、うっすら涙目になり、咳込むフランシスをせせら笑うヤオ。
「ふん。若造に注意される筋合いなんかねーある。それに喫煙は我んちの文化ある。銘柄だって数え切れねーほどあるあるよ!」
「…ふーん。(…あるある…)」
「北欧とか菊んとことかは喫煙防止のために煙草の値段を吊り上げてるみたいあるが、そんなんは邪道ある!!!
我んちには高級煙草というものがあって、それを客人に振る舞うのが礼儀ある。
今渡したその銘柄も日本円で1箱2100円もするやつあるよ!光栄に思うあるよ!」
そこまで一息に喋ると、
「…わかったら、有り難く味わうよろし。」
咥え煙草の口端をニッと吊り上げ、フランシスの濡れた目尻を指先で拭う。
「ん…有り難く頂戴するよ。」
窓辺から差し込む夕日の光を受けて微笑むヤオがやたらめったらに格好良くて、不覚にもときめいてしまった。
(なにこの余裕?!これが年上の貫禄ってヤツなの?!)
なんだか負けたような気がして悔しくなった。
「でもッ世界のおにーさんは俺なんだからね!!!
世界のお色気担当はどこぞの眉毛にくれてやっても、これだけは譲れないんだからね!!!」
半ばムキになってポコポコと主張してみたら、
「我の四千年の歴史なめんなある。てめーより我の方がよっぽどにーにあるよ。」
と、一蹴されてしまった。
(きぃぃ!!!悔しい!!!なんなのもう!!)
ヤオから見えない位置でピンクのハンカチを噛み締めていると、いつの間にか台所へ移動したヤオに呼ばれた。
「もう料理はできてるあるよ。我が丹精込めてつくたある。さ、早く席につけある。」
さすが世界三大料理国の一員なだけあって、すっごく美味しかった。
「最大のスパイスは愛あるよ☆」
………ってそれ俺の台詞なんですけど?!
【終劇】
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