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【悲報】最強の勇者御一行様、死に損ないの魔王に呪いをかけられ最弱パーティにされてしまう!
第16話 勇者御一行とセレナの約束
 小一時間経っただろうか。皆それぞれ思うところはあるだろうが、次第に本来の落ち着きを取り戻した。
 今は初めてセレナに招かれた時に話をした部屋に移動しテーブルを囲んでいる。

 最初の時と同様に、セレナは皆に紅茶を振る舞って席についた。
 わかってはいたが、俺を始め野郎3人は相変わらず紅茶はフラスコに淹れられた。

 俺はそんな紅茶から昇る湯気を見つめながら、
「俺達は……意地でも呪いを解くぞ」
 再び空気を壊すことになるかも知れないが、改めて俺達の目標を言の葉に乗せた。
 俺の口から飛び出した当たり前な目標を聞き、
「当たり前でしょう? その為に私達は今動いてるんだ」
 ニアは泣いて腫れぼったくなった目でそう言った。次いで、その顔を何を言ってるんだと呆れ顔に変える。

 しかし、俺と共にトミーとの別れに立ち合ったエイオスは俺の考えを理解したのか、
「トミーと約束したんだよ。魔物は、過去の記憶を引き継げるのかはわからないけど、死んでもまた転生出来るって言っていた」
 トミーの転生理論を語った。

「それは……アネも聞いたことあるかな」
 と、紅茶を口に運びながらアネモネが頷く。
 確かにアネモネも同じ魔物だし、トミーの言う転生論を知っているのも不思議ではない。

「何か知ってるのか?」
「うん。エイオスの……トミーの言う通り、魔物は死んだらまた転生するんだよ。ただ、人間に生まれ変わるとか、動物に生まれ変わるとかってのは絶対になくて、また魔物になるんだけど」 
 アネモネは珍しく真面目な面持ちでそう言うが、それが本当なら、絶対にこの世界から魔物が絶えるって事はないのか? 確かにダンジョンとかで一回そのフロアの敵を狩り尽くしても、一度別のフロアを経由すればまた復活しているのはそう言う事なのか?

 魔物事情を知らず、すっかり頭の上に?マークを浮かべている俺達を余所に、アネモネは更に言葉を紡ぐ。
「また魔物になるって言っても、他の魔物になる事はないの。例えば、私はまたアラクネーに転生するし、トミーはまたキマイラに転生する。その時、今この瞬間の記憶があるかはわからないけど……奥底にはあってほしいと思うよ。こう言う楽しかった時間とか、いつまでも覚えていたいし、こんな人達が居るんだよって、他の皆にも話してあげたいし」
「少し、わかった気がします」
 と、ギルが頷いた。本当にわかったのかよ?

「とどのつまり、アネさんはアネさんに、トミーはトミーにしかならないと言う事ですね!」
 自信満々に言って、ギルは満ち足りた顔をしていやがるが、なんか違くね?
 皆も、ん〜〜……と言葉に詰まる。

「惜しいと言えば惜しいし……違うと言えば違うかなぁ……」
 あながち間違いではないが、どこか的はずれなギルにアネモネも苦笑した。

「でも、さすが魔物。よく知っているわね。私達は魔物界の常識とか全然知らないから、勉強になるわ」
 好奇心旺盛なニアは、自分の知らないことを知るのが好きなのだ。
 今知らされる魔物転生の話は、ニアにとってとても興味深い物となったようだ。

「アネも死んだ訳じゃないからわからないけどね♪ 学校でそう習ったから」
「え、学校なんてあんの!? 魔物にも!?」
 なんていつもの様に突っ込む元気が出たとなると、エイオスもだいぶ復活したようだな。
「あるよー! だからお父さんとお母さんも、記憶こそないかもだけど、またアラクネーとして生きているはず!」
「……その節は、なんかすみませんでした」
 久しぶりにアネモネが俺を睨んだ気がしたので、謝っておくことにする。
 お父さんとお母さんがまたアラクネーに転生したとしても、アネモネの事は覚えていないかも知れないんだろう?
 なんか悪いことした気になってきてしまう。

「えっ。てか、その魔物転生理論が本当なら、魔王も……転生しちまうのか? また魔王復活! とかなっちまうんだろうか?」
 ここで、生まれた一つの不安と言うか疑問を口にすると、アネモネは、
「さぁ? あのおっさんは転生出来ないんじゃないかな? 嫌いだからわからない」
 と、心底興味なさそうに言った。

 転生出来ない? 何故に? アイツも魔王であり、魔物の王だろ? アイツだけ例外的に転生出来ないとかあるのか?
 しかし、今そんな話をした所で皆の意識はそっちには向いていないし、興味の対象にもなっていない。
 万が一魔王が復活したらしたで、また倒せばいい話。その為にも俺達は呪いを解くのが先決だ。

「とりあえず、アネモネの話によれば、トミーはまたキマイラに転生するって訳だ。キマイラって種類だけで見れば、何匹も居る。どいつがトミーの転生体かは見た目では判断出来ない。記憶が本人にない以上、それはトミーじゃないかも知れねぇし、トミーかも知れねぇ。とにかく、皆で沢山居るキマイラの中からトミーを探し出す。
 だから俺達は絶対に呪いを解くんだ。仲間との約束を果たす為に」
「ジョエルさん……」
 ギルが言葉に詰まる。が、大きく頷き、
「えぇ。絶対に呪いを解いて、そしてまたトミーに会いに行きましょう」
「……一人も欠ける事なく……ね」
 とニアも続く。
「アネもトミー見つけるよ! トミーの匂いは覚えたもん!」
 本当かはわからないが、アネモネもすっかり乗り気だ。

 皆でお互いの顔を見合せ頷き合う。
 呪いを解いた先の明確な目標が出来た事で、今はもう皆その目に生を宿らせている。
 残るメンバーのセレナはずっと黙ったままで答えない。嗚咽こそ止まったが、まだ俯いている。

 と思いきや、
「ジョエルさん……死の秘本をください」
 言うが早いか手を伸ばしてきた。その目は未だ真っ赤だった。
 まだまだ泣き足らないだろうに。

「……あぁ。そうだったな」
 俺は懐から死の秘本を出し、そのままセレナに手渡した。
 受け取ると、セレナは年季の入ったハードカバーに目を落としながら、
「あの、ジョエルさん……私とも約束、してくれませんか?」
 か細い声でそう言った。

「……約束?」
「私、タイムリミットまでに呪いを解く方法を探し出し、全力で皆さんをサポートします。だからその……もし、皆さんの呪いが解けて、トミーを探しに行くって時には……私も一緒に連れていってくれないでしょうか?」
 言って、セレナが俺を力強く見返した。

「え……?」
 予想外の言葉に俺は目をぱちくりさせた。
 そんな俺のアホ面を見てなのか、ニアがプッと吹き出した。
「えっと……セレナちゃんね、確かに俺達だけで勝手に盛り上がっちゃってたけど、ここにいる全員、今の話は君も一緒にいる前提で話をしていたワケよ?」
 決して、お前も行くのかよ? と言う意味で俺が変な顔をしたのではない。
 何故俺が変顔をしニアが笑ったのか、全然わかっていないセレナに、エイオスが説明する。
 それでもまだセレナはわかっていない様だ。
 こいつ、友達いないって言ってたもんなぁ。だから疎いのかな。

「あのな。約束だとかそんなんじゃねぇ。俺達の言う、皆でトミーを……の“皆”には、既にお前も含まれてるんだよ」
「え……?」
 セレナが益々目を丸くする。
「俺達は、セレナの事をもう仲間だと思っているし、友達だと思っている。皆でって言ったら、お前も一緒に行くに決まってるだろうが。ってか、行かないと言っても無理矢理連れていく」
「優等生と言いつつ、セレナさんも大概バカですね」
 言いながらギルが笑う。
 皆も大概バカだけどさ。お前に言われたら終わりだと思うのだがね。

 だが、本当にセレナはバカだ。友達や仲間になるのに理屈なんてねぇ。気付いたらなってるってもんだ。

「皆さん……」
 セレナは再びその目に涙を浮かべ、
「……ありがとうございます」
 掠れた声で囁いた。

「え、もし本当に呪い解けたらさ、私にも魔術教えてよ! セレナさん色々詳しそうだし!」
 と、新たに強力な協力者が出来、ニアも笑顔を浮かべた。
「セレナが居れば、絶対大丈夫だね!」
 言いながらアネモネはセレナに抱きついた。

「私、こんな風に友達に囲まれた事ないから、上手く言えないんですけど……凄く嬉しい……」
 アネモネに抱きつかれたまま、それを追い払う事もせず、セレナは瞳を潤ませ微笑んだ。


「さあ、次はどこに行くの!? ジョエル!」
 と、ニアが次なる指示を俺に仰ぐ。
「そうだな――――」
「ちょっと待って?」
 お後が宜しいようでと、俺もすっかりその気になり次なるミッションを口にしようとしたその時、エイオスがそれを遮った。

「この流れをぶった斬るとかお前ふざけんなよ?」
「微塵もふざけちゃいないよ!? いやね、セレナちゃんも行動を共にする感じ? なのかなぁって」
「今更何を言っているんですか? エイオスさん」
「そんな蔑んだ目で俺を見るんじゃないよ、ギルちゃん! いや、セレナちゃん学生だよね? 卒業制作云々言ってた記憶があるんだけど、学校放置して一緒に来れるのかな? 危険な冒険だし、万が一俺達のせいで卒業出来ないとか、約束された将来の道を閉ざさせちゃうとか考えると気が退けて……」
 と、エイオスは自分の不安を吐露した。

 確かに、言われてみればそうかもしれない。
 卒業制作を作っているって事は、もう卒業間近って事だろ?

 新たなメンバーが加わる流れが一変。不穏な空気が流れ出した時、
「そうなんです。実は5日後、卒業試験がありまして……」
 セレナが申し訳なさそうに、重い口を開いた。
「一緒に行きたいのは山々なのですが、その試験を受けないといけなくて……」
「えぇええええ!? じゃあセレナは一緒に来ないの!?」
 アネモネがセレナに抱きついたまま頭をポカポカと叩いた。

「でも、試験自体は目を瞑っててもパス出来ると思うので、タイムリミットの5日後まで、この死の秘本から呪いを解くヒントを手に入れ、皆さんをサポートします。一緒に行けないのは残念ですけど……」
 言って、セレナはシュンと肩を落とした。
 テストについては随分余裕っぽいが、ここでヒントを探すとして、どうやって俺達にそれを伝えてくれるんだ? まさか、リミットの5日間ここでセレナの調べ事待ちになってしまうのか?

「僕らも僕らで、やれる事はやりたいですからね……さすがにずっとここに居る訳には」
「俺とアネちゃんに至ってはこの街では賊って事になってるからね? 早く次の街に行きたいってのが正直な所だよ」
 そう言えば、エイオスとアネモネはおたずね者コースなんだったな。
 武器屋のオヤジが街の衛兵に事件を話していれば、街の掲示板にWONTEDとして貼り出されているかもしれない。

 さてどうしたもんかと眉根をしかめる御一行に、
「ちょっと待ってて下さいね!」
 死の秘本を抱き抱えたまま、セレナが他の部屋に駆けて行った。
 が、なんだ? と思っている内に、セレナは直ぐに戻ってきた。

「これを皆さんに! 持っていって下さい!」
 言うセレナから、獣の歯の様な形をしたピンバッチを手渡された。
「これは?」
 またセレナ印のアイテムか?

「はい、黒魔術アイテムの一つで、女鬼《めき》の歯の形を模したピンバッチです。その名も“|Her《ハー》 |My《マイ》 鬼《オニ》”」
「最後の最後にまたぶっ込んでくるのやめてくれない? やっと終わるかなって時に、しかもそんなモロな名前のアイテムやめて?」
 またエイオスが頭を抱えた。

「で? またセレナ印のアイテムだ。このハーマイ鬼、ただのピンバッチって事はないんだろ?」
 俺はしげしげとそいつを見つめながら口にした。
 セレナは、
「はい。これは皆さんの現在地を把握出来るレーダー的な役割と、ピンバッチにはスピーカーとマイクが付いていますので、離れていても会話をする事が出来るんです」
 言いながら後ろ手に隠していたもう1つ。アイテムではなく、一匹の魔物を、まるで小鳥を指に乗せるかの様に、俺達の前に差し出した。

「こいつは……?」
「伝書バット?」
 突如目の前に現れた小さな魔物を見、ニアが言って首を傾げる。
「さすがニアさんです! この子は伝書バットと言うコウモリの魔物ですが、魔法使いの間ではフクロウと同じ様に、昔からペットとして飼われているんです。ちなみにこの子の名前は“ロン”と言います」
 セレナは言いながら伝書バットの小さな頭を撫でた。良くなついている様に見える。
 エイオスは無表情で天井を仰ぐだけで、遂に何も言わなくなった。

「先程、ピンバッチは皆さんの現在地を、とお話しましたが、そのピンバッチからはこの子、伝書バットが好む周波数が出ているんです。ですので、今どこに皆さんが居るのか、私はこの子に教えてもらう事が出来ます。それに、もし渡したい物があれば、この子にそのピンバッチの周波数目掛けて飛んでいってもらい、皆さんに物を届ける事も出来るんです。
 さすがに伝書バットですので、重いものではなく、封書でしたり、軽い物オンリーになってしまいますけどね」

「要約すると、離れていてもセレナさんとコンタクトが取れて、軽い物であれば物のやり取りも出来る……って事ね?」
 いつの間にかニアの肩に飛び乗った伝書バットの頭を撫でながら、ニアがセレナの説明を簡潔に訳した。
「そう言う事です」
 と、セレナは頷き、
「物のやり取りに関しては基本的に私からって感じにはなりますけど」

「って事は、俺達は俺達で好き勝手動き回っていて良いって事でいいのか?」
「はい! 私はここで調べ、何かわかったら直ぐ皆さんに連絡しますので。その間皆さんもご自由に行動して頂いて構いません!」
 セレナが大きく頷くと、伝書バットも任せとけと言った感じに室内を飛び回った。

 そうと決まれば、俺達もとっとと次なる行動を起こすとしますかね。
 あまり悠長に長居している場合でもないし。

「ジョエルさん、次はどこに行ってみますか?」
 と、ギルが再び次の行き先を求めてきた。
 俺がそうだな……と悩んでいると、
「もし行く当てがないなら、雪の都・ブリージアに行ってみて下さい」
 と、セレナが進言してきた。

「雪の都……ブリージア?」
「はい。あそこもリンクシティと同じ様に魔法都市ですし。何より、雪の呪術などにも精通した赤い雪の女王が居ますので、何かしらのヒントは得られるかと」
 なるほどな、と俺は思った。
 確かに以前立ち寄った時、雪によるデバフ効果等に苦しめられた記憶がある。
 氷漬けにする呪術があるなら、それを解除する呪術もある……か。
 俺達にかかった呪いの全てでなくても、どれかしらを解除する事が出来れば御の字と言えよう。
 それに、全く当てのない今、適当な村に行くより、セレナの言う事を真に受けた方が得策かも知れないからな。

「女王……前回行った時その人に会ったっけ?」
「メインクエストをこなしていく中では会う事はなかったですよね。サブクエストをやれば会えたのでしょうか?」
「俺はその時まだパーティに入ってなかったから、そこもお初だしわからんよ」
 何て言うニア、ギル、エイオスの会話を余所に、
「よっしゃ! 次は雪の都・ブリージアにでも行ってみるか!」
 俺もここぞとばかりに仕切る事にした。

「雪の都かぁ♪ 暖かい格好した方がいいのかな!?」
 次の未知なる行き先にアネモネも目を輝かせる。
「あぁ、ブリージアはクソ寒いからな。しっかり防寒着を着た方がいい」

 行き先も決まり盛り上がる俺達を、セレナは楽しそうに見ていた。
 そんなセレナと目があったので、
「それじゃあ一つ頼んだぜ、セレナ。俺達はきっとまたここに戻って来る」
「えぇ。お気を付けて行ってきてくださいね♪」

 友達と言うものがどんなモノなのか。セレナが理解したのかはわからない。
 だけど、こんなのは理屈ではない。
 友達に、仲間になろうと言って、次の日からなるモノでもない。
 勝手に、気付いたらそいつがかけがえのない存在になっていて……ってだけの話だ。

 俺達はリンクシティで出来た新たな友と、今一度別れの挨拶を済ませると、夜の内にローブを着て外に出た。
 途中、街の看板におたずね者として貼り出されたエイオスの似顔絵を見つけ、エイオスは心底肩を落としていた。
 アネモネも一緒におたずね者になったと思っていたら、アネモネはあくまでエイオスが使役する魔物だと判断された様で、賊となったのはエイオス一人だけ。
 そんな謎の魔物使いの懸賞金は5000G。雷轟の買取額よりも安い懸賞額と言うことで、エイオスは余計に落ち込んでいた。

 そして、俺達は再び転移の祠のワープゲートの前に来た。
 次なる行き先の雪の都・ブリージアへの直接リンクはない。と言うことは、一番近隣の街の祠に転移して、そこからは自力で行かなければならない。
 最早行き先設定担当になったエイオスがセレナからもらった地図を見ながら、
「えーっと、ブリージアに行くには……タンティータウンって所の祠が近いみたいだね」

 言って、行き先をタンティータウンの祠に設定する。
 タンティータウン……ここは俺とギルにとってトラウマの村だが、直ぐに出れば何事もなく切り抜けられるだろう。

「よし、設定完了だよ!」
「それじゃあ、行きますか! 雪の都・ブリージア!」
 俺の鼓舞に、
「「おぉおおおおっ!!」」
 一同が大きく手を上げた。
 良い返事が聞けた俺は微笑んで、ワープゲートに飛び込んだ。


 嵐の様な半日を過ごしたセレナは疲れから椅子に座り窓の外を眺めていた。
 色々な事がありすぎた1日だったが、自分にもやる事が出来た。これ以上友を失わない為に。そして、友を迎えに行く為に。
 自分にしか出来ない事を、全力でやるのだ。
 御一行が旅立つこのタイミングで、セレナが見上げる夜空を一つの流れ星が駆けて行った。


 呪いのカウントダウン
 運命の刻まで
 あと5日(レベル137)



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