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雪月花
120
ああ、俺の純潔は気を失ってるうちに花と散っていたのか。



いや待て?遥か前に…

あれは確か中学一年の時の夏。
神童と川で遊んでいた時、俺は川の流れに足を奪われ溺れたのだ。
その時、俺が意識を失った後、神童がたまたま近くに居たおっさんを呼んできて、そのおっさんが俺に人口呼吸をしたんだ。
と、後日神童に自慢気に言われた記憶がある。
確かその時も俺はファーストキスがどうのと騒いだような。

って事は何か?
意識がなかった分何とも言えないが、
俺は中学生の時に、既にファーストキスはしていたって事になる。
命の恩人とは言え、名前も顔も知らぬおっさん相手にだ。
醜悪すぎる。


それに比べれば、今回の相手は六条だ…
一応こんなんでも女の子。
それも結構可愛い部類には入る。

別に、もう良いんじゃないか?
と、自分で自分に問いかける。

高校卒業まで健全なお付きあいとか、そんな堅苦しい事言わなくてもさ。
咲羅には悪いが。俺だって年頃の男の子。
もっと柔軟に生きて良いんじゃないか?


「シノブ、大丈夫?」
「ん…ああ」
六条の声に、俺は現実に帰ってきた。
「なんかどうでも良くなってきた。踏ん切りがついたよ」
それは良かった、と六条が立ち上がる。
時間も時間だ、部屋にでも戻るのだろう。
「なぁ、六条」
柔軟に生きると決めた俺は六条を呼び止めた。
「…?」
と、六条は首を傾げて見せる。
俺は、ちょっとおいで、と手を招く。
俺の元に来た六条に、
「何か傷が治る気配がないからもっかいキスしようぜ」
耳打ちした。

「バカ」
特にひっぱたかれる事もなく、それだけ言い捨てられた。

六条はおやすみも何も言わず、俺の部屋を出て行く。
「むぅ…」
もうちょっと何か殴られたりするかと思ったのだが、この反応は逆にショックだ。

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