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雪月花

仮に体をバラして、隠し持って歩くにしても異臭が漂うだろうし。
それをどこかに置き去りにするとしても、やはり住宅街やらが無駄に多いこの街では不審者の目撃情報が出るとか、不審物として二日と経たず発見されてもおかしくない。
そんな中、消えた体も見つからなければ、不審者の目撃情報も皆無。
街中で獣というのは考えにくいが、こうともなれば透明になれるとか、人間を丸呑みにできるとか、変な力を使える奇術師の類いしかないと思う。

しかし、そんな悠長な考えができるのは余所事の場合だけだ。
事件が起きているのは紛れも無く自分の街。
そうなった以上、そんなコトは思うだけで口にも出せない。
おまけに犬神咲羅の彼氏をやっているのなら、尚更、俺には彼女を無事に家まで送り届ける義務があるのだから。

機嫌を損ねて座り込む彼女を見下ろして、促すように俺は言った。
「ほら、送ってくからよ…」
「―――あ〜あ…
来てから、まだ30分も経って無いんだよ〜?」
なんて頬を膨らませながら、彼女は不満気に立ち上がる。
俺はそんな彼女を横目に大して宥めるコトもせず、椅子に投げ捨てられていたジャンパーを乱暴に拾い上げた。

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