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雪月花
15、同日
僕をここまで追い詰めたこの世の中は、心底腐っていると思う。
神がいるのなら、お前は何をしているんだ、とぶん殴ってやりたいくらいだ。

『千尋、お前は何をやるにも一番になれ』

父親の口癖とも言えるその言葉が僕の脳裏を駆け巡った。

学校にもちゃんと毎日行っている。
テストでだって100点以外の点数なんか取ったコトもない。
そんな僕をアイツは、家に帰ってまで机の前に縛りつけ、僕から自由を奪ったのだ。
僕だって一人の人間だ。
自分の意見だって持っている。

ふと頭を過ぎったソレは、呪いがかかったモノの様に、頭から離れない。
歩きながらそんなコトを考えていると、ドッと吐き気が込み上げた。
「っ――――」
反射的に口元を押さえつける。
ソレは既に臨界点を突破し、喉の直ぐそこまで来ているらしい。
口の中に妙な味が広がった。
僕は口元を押さえたまま、前を行く頭の悪そうな人間達を押し退けて、急いでトイレへと向かって行った。

目の前で胃の中に収まっていたモノが、水流によって勢いよく流される。
僕はそれらを呆っと見送ってやると、よろめきながらトイレを後にした。

本楠木駅西口。
改札の前の看板にはそう記されている。僕は改札機前の壁に寄り掛かって腰を下ろすと、そんな駅構内を見回した。
いろいろと自分の個性を主張した格好をする人間達が、ゴミの様に屯しながら電車の時刻を確認、切符を購入し、自分の目的地へ行こうとしている。
恐らくは、この繰り返される日常の波から外されないように、必死にもがいているだけなのだろうが…

駅構内に限らなくてもこの世の中の大半が、そんな自分の意見の主張も出来ないゴミ共で埋め尽くされているのだと僕は思う。
そんなのが他人の眼にどう映っているか、なんて考えるのも簡単過ぎて時間の無駄だ。

僕はゆっくり腰を上げると、行き交うゴミ共を睨み付けながら薄汚れた駅の改札を通り、夜の冷たい空気に満ちた地上に足を踏み出した。

案の定、外でも薄汚い格好をした女や、人間に突然変異したライオンの様な頭をした男。切羽詰まった臭そうなサラリーマンが、我先にと足を動かしている。
見ているだけで、再び吐き気が込み上げてきた。
特に用が無ければ、僕自身こんな汚い街に足を運ぶなんて、こっちから願い下げだっただろう。
今日ここに来たのは他の何でもなく、ただ、殺りに来ただけなのだ。

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