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雪月花
13
確かに今の俺には家族は居ない。その唯一の思い出の詰まった宝物が黒霧の家だった。
しかし、俺が今後あの家で一人で暮らし、こんな豊かな食生活を送れるか?
普通店で食えば合計1000円以上の出費は覚悟せねばならぬ程の友真のこの料理。これと同等の物を俺が作れるか?
否、絶対にインスタント食品ライフを送る事になるに違いない。何しろ生活費すらない。

ならどうする? 思い出は心にしまってあるから思い出なのではないか?
過去の幸せは過去の幸せだ。
未来は未来で、過去の幸せに負けない幸せを手に入れればいいのではないか?
昨日葉月氏が言おうとしたのはそう言う事じゃないのか?

なら俺は―――
「友真…どうしたの?眼なんて赤くして…」
と、モノローグ中に突如現れたのは薫である。
「あ、ちょっと…タマネギが…」
「ふぅん?」
友真の言葉に鼻で返事をし、薫は貴様が泣かしたのか?と言った目を俺に向ける。
「薫」
「なんです?」
薫の白状する気になったか的な目。だが生憎俺の口から飛び出す答えは違う。

「俺はこの家に戻る」
「なっ―――」
薫の表情は驚きの顔に一転した。
「いきなりなんで…」
「俺は気付いたんだ。あの家に居ても俺は過去に縛られるだけだ。生活費もままならない。
だったら、過去の幸せに負けない幸せをここで得ようと思う。ここで俺は生まれ変わるんだ」
「良いんですか…?」
構わん、と大きく頷く。
明るい未来になる当てのない生活を送るくらいなら、俺はこっちを取る。
ここには美味い料理もある。生活にも困らない。万事OKだ。
「二度と日常には戻れなくなりますよ…?」
それが薫からの最終確認だった。確かに簡単に答えられる質問ではない。
頭の中で復唱すればその質問の重みが判る。


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あきゅろす。
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