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雪月花
10、友真
その後、薫が用意してくれた自室となる予定の部屋の視察を行なった。
6畳(嫌な響きだ)一間の和室。窓の下には小さな机が置かれ、その上には古びた書籍が俺に勉強しろと言わんばかりにびっしりと置かれていた。
押し入れの中には綺麗に畳まれた布団も用意されている。
他の部屋も似た様な間取りで、部屋数からすれば民宿にしてもいいくらいの建物だ。

そんな浅葱家の中を一通り見て過ごしたその日の夕方、薫が言った通り、本当に一人の来訪者があった。
「ん…?」
「あ…」
その娘は階段から降りて来た俺と鉢合わせ、モノの見事に硬直している。
両脇に下げた長い髪(ツインテールとか言う奴だ)。
それとお揃いに、両手に買い物袋をぶら下げ立っている。
確か名前が――――
「ユマ」
「は、はいっ!?」
ビクッと跳ね上がる程のリアクションをした少女は、何故私の名前を…と言わんばかりに俺を見ている。
そして、
「何故私の名前を…?」
言った。
何をビクビクしているのだ。俺はそんなにガラの悪い兄貴に見えるか?
「薫に聞いたんだ。あんたのことは」
「あ、薫に…? …お兄さん…ですか?」
子犬のようにふるふる震える少女ことユマは、イライラする程ゆっくりした動作で靴を脱ぐ。
「とりあえず、多分薫の兄貴の黒霧…?…浅葱?」
この場合どっちにすればいいのだろう。
まぁここは…
「黒霧忍だ。よろしくな」
まだここに住むとは決まっていないのだから、黒霧のままで良いだろう。
「あ、はい♪薫さんの友達の橘友真です。ちょくちょくお手伝いに来てます。よろしくお願いします」
深々とお辞儀をする友真。
お手伝いだ?全く、この御時世に良く出来た娘だこと。
そんな中、目に止まったのは彼女の格好だ。
冬服と思われるセーラー。膝丈までの長いスカート。制服なのだろうが――――
「もしや中学生?」
「はい、中学生ですよぅ?」
友真はそれがどうしたと言わんばかりに堂々と言い放つ。

まじか。
てことは薫は中学中退か。
俺の妹だと言うから高2以下であることは判っていたが中学生か。義務教育だろ?いいのかよ?
「薫の病気の事は聞いてます。皆に迷惑をかけちゃうからって、薫も言ってましたし…
学校では友達として何も出来なかったから…だからこう言った場では友達として力になれたらな…って♪」

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あきゅろす。
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