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雪月花

ガサガサと言う物音に、俺は目を覚ました。
「―――――」
ゆっくり首を動かし、未だぼやける目で何ごとかと回りを見渡す。
やがて理解した。視界一杯に広がる日本家屋。俺は俺の妹と名乗る浅葱薫の家で、あの後そのままお寝んねしてしまったと言うことを。それも居間のど真ん中で。
「あ、起こしちゃいました?」
と、ミノムシのように蠢いた俺に気付いたのか、何者かが俺の前に立ちはだかった。言うまでも無く、浅葱薫である。
「…いや、気にするな」
適当に返答し、ゆっくりと身を起こす。こんな体勢とは言え、少しばかり寝たためか気分もだいぶ落ち着いた。昨日のコトは未だに信じがたい出来事だが。
「あのさ…ここに住むって話だけど」
「はい?」
なんて薫は呑気な声を上げて、二人分の湯飲み茶碗を手に卓袱台を隔てた俺の前に腰を下ろす。そしてそれにお茶を注ぎながら、
「別に今すぐに答えを出す必要はないですよ。ゆっくり時間をかけて考えていただいて結構です」
「……なぁ…もう少し詳しく話を聞かせてくれないか?」
「何をです?」
小鳥の様に小首を傾げながらお茶を勧める薫から湯飲み茶碗を受け取り、
「浅葱の話をさ…」
「浅葱の話ですか…?」
くいと一口、茶碗を口に運んで薫はか細い喉を動かした。
正直、俺にはこんな妹がいたなんて信じられない。ただ知らなかっただけだが、全ての話が飛躍しすぎている気がしてならないのだ。
「どうやって話しましょう…」
と、薫は眉根をひそめ、深々と考え込む。
「そもそも、お前学校は?平日の真っ昼間だぞ?」
「あ、学校ですか?」
悩みに悩む薫の口から何かが飛び出すには時間がかかると踏んだ俺は、適当に質問をすることにした。
すると薫はまたもやうぅむ、と物思いに耽ったような顔をし、
「辞めました」
そう言った。
「辞めた?」
「はい。葉月さんのすすめです。約半日、毎日のように学校に行っていたら、いつ発作が起こるか判ったものじゃありません。犠牲者を出さないためにも、これが一番の方法なのです」
「発作って…」
「代々浅葱に伝わる奇病です。前にも申しましたが…覚えてませんよね?」
あの時はまさか自分に関係がある事とは思いもしなかったからな。
面目ないと思いつつ、コクリと頷く。
「浅葱の家系は代々から伝わる吸血鬼の一族なのです」
またそれか。
「はい。しかし私達一族は、人間の生き血を吸う吸血鬼とは違います」
どういうことだ。


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あきゅろす。
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