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雪月花

「…引っ越す前から、とか?」
「いや、それはない」
咲羅の意見を言語両断。俺は即答してやった。
自分の意見を一秒と経たずに否定され、咲羅は“なんでなんで…?”と、子供の様に問い詰める。

「…だぁ、もう。
これはお前に言っただろうが。
俺は事故に遭ってからって言うもの、事故の時の事も覚えて無ければ、それ以前の記憶も無いんだよ。
だから前の家族の事も全く覚えていやしねぇ…
おばさんやおじさんに聞いたって、大して教えてくれねぇしさ…」
正直、意味がわからなかった。

別に自分の家族の事なのだから、少しは教えてくれても良いと思う。
腑に落ちない事と言えば、もう一つ。
当時は全然気にもしていなかったが、俺をただ引き取っただけの黒霧が、俺の姓を黒霧に改名させた事だ。
ただ引き取っただけなのなら、別に前の姓のままでも良かった気がする。

「ちょっと…また考え事?」
「え…―――――」
再び考え込んだ俺を見兼ねたのか、すぐ目の前に咲羅が覗き込んでいた。
突然至近距離に現れた彼女の顔に、俺は目をパチクリさせ、頬を赤らめながら逃げるように立ち上がる。
「ほほほ、ほら…もう外も真っ暗じゃねぇか。
最近物騒だし、そろそろ帰った方がいいんじゃねぇか?
家の人だって心配してるだろうし…」
と、自分でも情けなく思える程、本当に逃げてるとしか思えない事を口にする。
俺の言葉に咲羅は顔を曇らせるが、俺の言ってる事も最もなのだ。

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あきゅろす。
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