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雪月花
18
ちょっとだけ…凪を見直したかもしれない。
「ちょっとだけ…ナギを見直したかもしれない。とでも思ってる?」
そう言うれいんは、自分の事じゃないくせにどこか嬉しそうだった。
「いや、てか人の心勝手に読むのやめてくれない!?」
お前はエスパーか!!

「まぁ…ちょっと見直したってのはホントだよ。
アイツにしか出来ない事とは言え、何の見返りもなしに命張れるなんてさ。
それも誰か個人のタメにってんじゃなく街のタメだなんて、スケールがでかすぎて俺なら背負いきれんよ」
「ナギは嬉しかったのかもしれない」
なんて、れいんは凪が去った廊下を見つめながら言葉を紡ぐ。
「…嬉しかった?」
「機関に入ってからと言うもの、世界から、日常から隔離された生活を強いられるようになった私達は、もう今までのような普通の生活は二度と送れないんだと思っていた。ずっとね。
だけどそんな私達を、ナギを、この街は受け入れてくれた。確かに希種である事は隠しているけれど…
たまたま私達が来たのがこの街だったってだけなのも判ってる。でもこれも何かの縁だと思ってる。
だから自分を受け入れてくれたこの街が愛しいの。
こんな自分にも居場所が出来たのが嬉しいの。
まだナギとこんな話はしてないけど、きっとナギもそう」
「…お前がそうだからか?」
「そう」

れいんのヤツがヤケに饒舌な事は突っ込まないでおく。

ま、なんであれ無報酬なんて俺には無理な話だと改めて思ったね。
街のタメにてめぇの命を張るんだ。守り抜いた暁には、それ相応の見返りはいただかねぇとな。
よって、俺は絶対葉月さんに願い事を叶えてもらうんだ。
散々悩んだ結果、俺の願いは決まった。
後はれいんと(あわよくば凪とも)協力してラスボス吸血鬼を倒すだけよ。

何?願い事は何かって?
明日、ちょっと健診のタメ病院に行くんでな。
その時葉月さんに念を押すついでに教えてやるぜ!
へっへっへっ、今から楽しみだぜ(笑)

「シノブ、何を笑ってるの?」

れいんの無機質な声に呼び戻され、俺は我に返った。

「ふふん、何でもねぇよ」
「そう」
ぶっきらぼうに言って、れいんは俺の目を見つめた。
俺は気まずくて直ぐにそっぽを向く。
どうにも人の目を見て話すってのが苦手なのだ、俺は。

しかし、そっぽは向いてみたものの、未だにれいんからの視線が痛い程に感じられる。
さすがに耐えきれず、威嚇するように睨み付けながら、
「…何だよ。俺の顔に鼻くそでもついてるか?」


「何でもない。
それより、そろそろ行きましょう」
溜め息混じりに言いながられいんは立ち上がる。

そうだな。寒さが本格的になってきた今の時期だ。
あんまり時間が遅くなったら寒すぎて行き気すらそがれてしまうだろう。
早いとこ行ってとっとと帰って温かい布団で眠ろう。
「だな、ぼちぼち行くか」

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あきゅろす。
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