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雪月花
4、10月25日(金曜日)

雨が降りしきるその日の夕方。
メールで『学校帰りに寄るから』とだけ連絡をよこすと、犬神咲羅(いぬがみさくら)は本当に制服姿のまま、傘を片手にやって来た。

「こんばんは。体は大丈夫?」
玄関で傘を畳み靴を脱ぐ。
「お前、マジで押しかけかよ。
おばさん達だっているのにさ…」
俺はそんな咲羅の動作を見つめながら、壁に寄り掛かって毒づいた。
「まるで迷惑みたいな言い方じゃない。
大体、忍が学校休むのがいけないんだからね?」
と、咲羅は顔をしかめて俺に言い返す。
そして靴を揃え、誰もいない廊下にお邪魔します。
なんて、イイ子を着飾った様に言い放った。

「全く…後でからかわれるのは俺なんだからな?」
そうだ。もしおばさんに俺に彼女がいるなんて知られたら“まぁ、彼女がいたのね。今度話してみたいわぁ”、なんて笑顔で言われるに違いない。
正直、俺はおばさんのそんな所が苦手だった。

そもそも俺こと黒霧忍は、小学6年生の時に交通事故に遭ったらしい。
おばさん曰く、家族で出掛けていたところ、何かの拍子でうちの車が反対車線のトラックに突っ込んだそうだ。

そのまま父と兄は帰らぬ人となり、母と妹、俺の三人は奇跡的にも生還――――
女手一つで俺達兄妹を養うのは無理だろう……
そう判断した親戚の黒霧が俺を引き取ったという訳だ。

チラッと、俺がリビングの方を盗み見ていた隙に、犬神咲羅は黒く長い髪を靡かせて、一足先に階段を上って行く。
「―――ったく…」
俺は小さく溜め息を漏らし、彼女の後を追って階段を上っていった。

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