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雪月花
3、12月20日(金曜日)【悪友】
「…駅から徒歩五分。直ぐ近くにコンビニあり。お風呂とトイレは別々。
いいなぁあああ!飛び付きたくなる程の物件なのに、如何せん高すぎる!」
雄叫びの様な声を上げ、聖凪はちゃぶ台の上へと平伏した。
開いた障子の隙間から差し込む夕陽が、凪の銀色の髪を茜色に染め上げる。
窓の外で鳴いてる鳥のさえずりが、平和な日常の演出に一役買っていた。

凪はだらしなく項垂れたまま、読んでいた物件情報のチラシを放り捨てると手足をジタバタとさせ、
「何をするにも金、金、金!!嫌になるわ!
絶望した!私はこんな世の中に絶望した!!
お金がなければ何も出来ないなんて!
足元見てるんじゃないわよッ!貧乏人にこんな大金払えるワケないじゃない!
一体誰がこんな高い部屋借りられるってのよ!?
芸能人?プロ野球選手?
はん!ただの小娘がこんな良い所に住みたいだなんて100年早いって!?
笑っちゃうわよね、笑えば良いじゃな―――――」
「うるせぇえええええええ!!」
バンッとちゃぶ台に両手を叩きつけ、俺は叫んだ。
その拍子にちゃぶ台の上に置かれていた3つの湯飲みが揃ってジャンプする。

「何なのお前、毎日毎日。
もういい加減部屋決めろよ!
何週間ここに居座るつもりだ」
「良いじゃない別に!
大体、居場所が見つからないなら一緒に探してやるって言ってくれたの、忍くんじゃない!!」
「アレはそう言う意味で言ったんじゃねーよ!
てか、最初の数ヵ月は葉月さんが金出してくれるって言ってんだろ!?
だったらもう好きな所借りちまえば良いだろうが」
「現実を見なさいよ」
「あん?」
「確かに、葉月さんはそう言ってくれた。ここは有り難くお言葉に甘えさせてもらうつもりよ。
ただ調子に乗って良い部屋を借りたって、その後の家賃を払えなきゃ意味がないじゃない」
と、凪は頬杖をつきながら大きな溜め息を吐いた。

俺も言われてみればと思い、
「そうだよ、そもそもお前バイトはどうすんのよ。
学校なんて行ってたらロクに働けないんじゃないのか」
「そうなのよねぇ…まずはバイトを見つける所から始めた方が良いかしら」
「そこからかよッ!!」
凪のやつ、ちょくちょく出掛けてたからもうバイトくらいは見つけてるのかと思ってたわ。
一体コイツは今まで何をしていたんだ。

てかマジ大丈夫か?
ここで俺は一度冷静に考える。
高校生のバイトの給料なんて、良くてせいぜい月6、7万だろ。
学校に通いながらってんなら尚更だ。
たった6、7万程度の給料じゃ、どんなに安い物件が見つかったとしても家賃や光熱費だけでいっぱいいっぱいじゃないか。
生活費に回す金なんて…ないんじゃね?

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あきゅろす。
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