雪月花
3
全身がビリビリと危険信号を出しているにも関わらず、俺の体は電池が無くなった機械みたいに動かない。
男は生首を手放すと、一歩一歩、確実に俺の方に近付いて来る。
しかもその歩幅は尋常でなく、四秒足らずで俺の目の前に立ちはだかった。
男は一言も喋らない。
ただ動けない俺を前に、その大きな手を静かに伸ばすだけ。
伸ばされた男の手は、俺の頭をガシッと鷲掴みにした。
そして握り潰すように、ジリジリと力を込めてくる。
抵抗したくても、体は金縛りにあったように動かない。
何も抗うコトができないまま、薄れゆく意識の中、苦し紛れにも何の解決にもならないコトを口にしていた。
「…お前は、なんなんだーーーー」
自分でも、この状況で何を言ってるのか。
つくづく呆れてしまう。
ピキッ―――――
頭蓋骨が悲鳴を上げた。
力は容赦無く込められる。
「ぐっ……」
痛みを堪えようと歯を食いしばっても力は入らず、逆に男の力は強まった。
このオヤジ、俺を握力測定機と間違えてるんじゃねぇのか…
ピキッ…ピシ…――――
心の中で馬鹿なコトを考えているうちにも、頭蓋骨の悲鳴は断末魔へと変わって行く。
俺の頭部が握り潰されて塵になる間際、男はその血に塗れた口を開いてこう言った。
「アサギクオン――――」
なんかの呪文か?それとも男の名前か。
言っても尚、男は俺の頭を掴んで離さない。
ブーッ、ぶーッ、ブーっ、ぶーっ…
その時、傍らで何かの音がした。
音は、ここではないどこか別の場所で鳴っている。
そのまま何秒と鳴り響くと、それは単調な機械音に変わった。
――ピーーッ…
「てめぇ忍!学校サボって何やってんだ!早く来いよ、こんちきしょう」
聞き覚えのある電子音と男の声が、灰色の空から聞こえて来る。
学校サボって何やってんだ―――
その言葉に、俺は今までのコトが夢だと気付かされた。
そのまま吸い込まれるように、ドロドロとした嫌な夢の世界から、現実に引き戻されていったのだった――
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