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雪月花

全身がビリビリと危険信号を出しているにも関わらず、俺の体は電池が無くなった機械みたいに動かない。
男は生首を手放すと、一歩一歩、確実に俺の方に近付いて来る。
しかもその歩幅は尋常でなく、四秒足らずで俺の目の前に立ちはだかった。
男は一言も喋らない。

ただ動けない俺を前に、その大きな手を静かに伸ばすだけ。

伸ばされた男の手は、俺の頭をガシッと鷲掴みにした。
そして握り潰すように、ジリジリと力を込めてくる。
抵抗したくても、体は金縛りにあったように動かない。

何も抗うコトができないまま、薄れゆく意識の中、苦し紛れにも何の解決にもならないコトを口にしていた。

「…お前は、なんなんだーーーー」
自分でも、この状況で何を言ってるのか。
つくづく呆れてしまう。

ピキッ―――――
頭蓋骨が悲鳴を上げた。
力は容赦無く込められる。
「ぐっ……」
痛みを堪えようと歯を食いしばっても力は入らず、逆に男の力は強まった。

このオヤジ、俺を握力測定機と間違えてるんじゃねぇのか…

ピキッ…ピシ…――――
心の中で馬鹿なコトを考えているうちにも、頭蓋骨の悲鳴は断末魔へと変わって行く。
俺の頭部が握り潰されて塵になる間際、男はその血に塗れた口を開いてこう言った。

「アサギクオン――――」

なんかの呪文か?それとも男の名前か。
言っても尚、男は俺の頭を掴んで離さない。


ブーッ、ぶーッ、ブーっ、ぶーっ…
その時、傍らで何かの音がした。
音は、ここではないどこか別の場所で鳴っている。
そのまま何秒と鳴り響くと、それは単調な機械音に変わった。

――ピーーッ…
「てめぇ忍!学校サボって何やってんだ!早く来いよ、こんちきしょう」
聞き覚えのある電子音と男の声が、灰色の空から聞こえて来る。

学校サボって何やってんだ―――
その言葉に、俺は今までのコトが夢だと気付かされた。
そのまま吸い込まれるように、ドロドロとした嫌な夢の世界から、現実に引き戻されていったのだった――

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あきゅろす。
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