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雪月花
130
キッチンから漂う良いニオイは俺達の食欲を刺激した。
もう晩飯が楽しみでしょうがない。
キッチンに立つ六条ってのは何とも珍しく、なかなか絵になっている。
なんて事を思いながら、エプロン姿の六条に見とれてしまう俺がいた。


すっかり手持ちぶさたになった俺と薫とユマっぺは、料理が出来るまでの間、神経衰弱をする事にした。
たまにはこんな日があっても良い。
その結果は俺の惨敗。
一位はまたもや薫だった。
薫のヤツ、ババヌキと言いダウトと言い、トランプ強すぎだ。

遂にトランプにも飽き、談笑モードになったその時、
「あれ…焦げ臭くないですか!?」
ユマっぺが声を荒立てた。
「な、確かに!六条大丈夫か!?」
俺もユマっぺに続く。
すると、キッチンからは直ぐに、
「大丈夫」
と、全然慌てた様子もなく、落ち着いた返事が返ってきた。

まったく、火事とかやめてくれよ?


それからしばらくの間、六条は無言で料理を続けた。
薫とユマっぺは、今は縁側で楽しそうに何かを話してる。
俺は俺で暇だったから、特に六条を手伝う事もせず、居間でゴロゴロしながら咲羅とのメールを満喫していた。

何でも、後夜祭の時に神童が下級生の女の子に告白されたらしい。
結局付き合わなかったみたいだが、せっかくのチャンスを自ら手放すとはバカなヤツである。
どんな子だったのか、とかは火曜日学校に行った時に聞いてみる事にする。


「シノブ」
と、突然キッチンから俺を呼ぶ声がした。
なんだ、と思った時には、六条がキッチンからこっちに向かって来ていた。
「おい、火は大丈夫なのか」
「問題ない」
言って、六条は少し乱れたエプロンを正す。
そして、
「今夜、もう一度吸血鬼と戦いましょう」
真っ直ぐな瞳でそう言った。
「ああ、良いだろう」
俺も即答する。
やっと力が自分の意志で使えるようになったのだ。
この感覚を忘れないうちに、もう一戦くらいはやっておきたかった。
「そしたら…いよいよか」
俺の脳裏を、純志麻の憎たらしい笑顔と笑い声が駆け巡る。

「そうね。今日明日で終わらせましょう」
と、六条は力強く頷いた。
それだけ言うと、六条は踵を返しキッチンへと戻って行く。


またあいつと対峙するのか。と俺は思った。
前回、まったく声が出なかったのは、吸血鬼の群れに囲まれた恐怖のせいってのもある。
それ以上に、純志麻から尋常じゃない悪意を感じたからってのも、原因の一つだ。
あいつはきっと、今この世界に居るどの犯罪者より悪意に満ちている。そんな気がするのだ。

そのただならぬ悪意を前に、俺は自分を保っていられるだろうか。一本線がブチ切れたようなヤツを相手に。

たしかに俺も、自分の意志で力を使えるようにはなった。
六条ももう奇術を使いこなせて。
それでも、俺の中のこの不安だけは、拭う事が出来なかった。

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あきゅろす。
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