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雪月花

気がつけば、俺は広場まで歩いていた。
足を止め、黙って雪の積もったベンチを凝視する。

広場はこの敷地内のほぼ中枢部にあり、普段は利用者達の休憩場として使われていた。
視界は見飽きる程、どこもかしこも変わらず白一色。いい加減見ていて目が痛くなる。

ザシュ……
奇音に思考を遮られ、反射的に音のした方を振り向いた。
白一色の世界に一つ、黒い影が入り混ざっている。
俺はそれが、本日初めて目にした人影だと理解した。
距離にして200mくらいだろうか。
結構距離があるにも関わらず、人影はやけに大きく見える。

別に話をしたい訳でもないのに、何を考えたのか俺は再び歩き出した。

170m、150m―――
一方的に距離を縮めて行く。
影はその場から動かない。

100m、80m、75m―――人影の姿形をはっきり捕らえた所で、俺は足を止めた。
髪は長いが、体格から推測するに性別は男性。
身長は190cmと言ったところか…

男はこの冷たい雪の中、黒い着物一枚で立っている。
寒くないのか。なんて、そんな事は頭に無い。それよりももっと印象の強いモノが視界に飛び込んだのだから。

…とにかく赤い―――――

俺はそれを確認したくて、もう一歩だけ踏み出した。
男の足元の雪は白くはなく、ただ純粋に真っ赤。
地面だけでなく、その男の手も、顔も、露出した部分全てが赤い。

「―――血……」

知らずに声を上げていた。
さっきまで、当たり前のように機能していた体がピクリとも動かない。
男は静かに俺の方に視線を移すと、ジッ…と獲物を狙う肉食獣の様な鋭い眼指しで見据えて来た。
そこに言葉は無い。
男は九十度、俺の方に体を振り向けた。

その右手には、何か得体の知れないモノを持っている。
それはボーリングの玉ほどの大きさで、蛇口の緩まった水道の如く、赤い液体を滴らせている。

早く逃げろ――

逃げないと殺される―――

手に持っているのは人の首だ―――
さっきの奇妙な音の正体はソレだろう。
目の前にいるのは人殺し。
逃げなければ、今度は俺が殺される―――

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