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雪月花
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しばらく歩くと、俺と六条の視線の先に、自販機の眩しい明かりが飛び込んできた。
しかし、そこの自販機は、俺にそこでドリンクを買うのを躊躇わせた。
自販機の前にヤンキーらしき男が二人、タバコをふかしてタムロしていたからだ。
「六条、他ん所で買わない?」
俺の耳には、質問の答えとは別の言葉が返ってきた。
「構えなさい」
「え?」
「吸血鬼よ」
あのヤンキーが?それとも他にいるのか。
「自販機の前の二人。さっきから向こうもこっちの動向を窺ってる」
六条は本日2度目の戦闘になるかもしれないと言うのに、落ち着いている。全然疲れた様子もない。
「まじかよ!」
俺も臨戦態勢に入る。
右手に力を込め、さぁイメージだ。


どんな姿をした吸血鬼か知らないが、俺の中に来い。
俺はどこにも行かない。
来いッ!来いよ!ここにぃ!
俺に力を貸しやがれぇええええ!!

「どうだっ!」
別に力が湧いてくる気もしなければ、俺の頭の中で何かの種が弾ける気配もない。

「六条。イメージしてみたんだけど、俺何か変わった?」
六条は無言で俺を頭から足元まで見ると、
「目が泳ぎだした」
「いや、それビビってるだけだから。
俺が聞いてるのは、こう…力的な何かは感じるかって事で。
俺の放つ吸血鬼の波長が前にも増して強くなったとかさ。ない?」
「…特には」
六条の返答に、さすがに慌てる俺。

あんだけ勢い良く出てきたのに!?
あんなにもう力使えますよ的な雰囲気醸し出してたのに!?

それもあんな、来いよ!とか念じといて!?
なのに何もなしとか…
超恥ずかしい。

「シノブ、来るわよ」
六条が手の内に炎を出現させる。
「け、剣は使わないのか?」
俺は何とか落ち着こうと、会話を試みる。
「今は奇術を使いこなせるように練習中。だいぶ判ってきた」
「た、頼もしい…」
会話は終了。
自販機前で談笑するヤンキー達の方を見ると、タバコを地面に投げ捨て、それを靴で踏み潰した。
そのまま自販機の前から、ヤンキー達はこっちに向かって歩き出す。
それと同時に、奴らの目が赤く発光している事に気がついた。
さっきまでそれに気付かなかったのは、自販機の明かりがあったせいだろう。
暗闇の中では、それがハッキリと判る。
本当に吸血鬼だった。

俺もやむを得ず、もう一度イメージする。

頼むから来い。俺の体を好きなように使え。力を貸してくれ!
と。

やはり何の反応もない。
万策尽き果てた。
これでダメとなると、もう何をイメージすれば良いのか判らない。
「ぎ、ギギギギギ…」
さっきまでタバコを吸っていた、金髪の方の吸血鬼が歩くスピードを速めた。
そして、跳躍する。
「こいつは私がやる。
シノブは向こうの吸血鬼をやりなさい」
「わ、わかった!」
れいんが跳躍したヤンキー吸血鬼に向かって炎を浴びせる。
俺はその下を潜って、未だ呑気に歩いている吸血鬼との距離を縮めた。
…のは良いんだが、俺どうすれば!?

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あきゅろす。
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