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雪月花
116
「グォオオオ…」
まんまと一撃を食らわせてやる事に成功した。
だがこの程度でこいつを倒せない事を俺は知っている。
即座に横たわる吸血鬼に馬乗りになり、ひたすらパンチをお見舞いしてやる。
とにかく数を浴びせれば、力が発動するのではないか。そう思ったからだ。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。
そう言うだろ?


「この!この!よくも!」
馬乗りになりとにかく殴るその様は、まるでこの間の視聴覚室で俺が六条にひたすらビンタされた時のようだ。
十数発パンチをぶち込んだその時、ズブ…と俺の手が一瞬にして吸血鬼の体を貫通した。
「…!!
出来た!六条!何か出来たッ!
おえっ…!!」
喜びも束の間。
俺は相手の体から飛び出した内蔵やらを見てしまったせいで、吐き気を催した。
「ぐ…グゥウウウ…」
俺の下敷きになっている吸血鬼はまだ息がある。だが虫の息だ。
「コフーーーッ!」
そんな俺の元に、新たな吸血鬼が襲い来る。
「ちょ…ちょ…!待っ―――」
大きく飛躍する吸血鬼。慌てて逃げる俺。
飛んだ吸血鬼は、ほんのついさっきまで俺が居た場所。
内蔵をぶちまけて横たわる吸血鬼の上に着地した。
「ぐ…おぉぉぉ…」
その衝撃で、虫の息だった吸血鬼が消滅する。
同士討ちとはラッキーだ。

吐き気と体中の痛みを我慢しつつ、俺は拳を固めて吸血鬼目掛けて飛び込む。
が、吸血鬼の攻撃が先に繰り出された。
「ぬあっ!」
俺の腹に強烈な一撃をお見舞いされる。
もう体が悲鳴を上げてるのが判る。多分これ以上はまずい。
立ってるのだって不思議なくらいだ。
それでも、俺の体は吹き飛ばされまいと、地面に踏みとどまった。
さっきと同様に、今度は吸血鬼の肩をガッチリと捕まえて動きを奪う。そのまま、
「くそったれがぁあああ!」
俺がたった今食らった箇所。
それと全く同じ土手っ腹に、強烈なパンチをお見舞いした。
一発、二発。
何発でも入れてやる。逃がさねえ。
「コ…フ…」
吸血鬼が怯んだところで、俺の脳内である疑問が浮かんで来た。
あれ、普通にダメージ与えられてるんじゃね…?
と。
さっきまで、普通のパンチやらの肉弾戦じゃこれっぽっちもダメージになってなかった筈だ。
それが、普通のパンチでもダメージを与えられている。ふと、吸血鬼を散々殴った俺の手を見て見るが、別に特に異変はない。
でも、さっきまでとは違う。
これだけは確かなのだ。今なら力とやらを使えるんじゃないか。そんな気さえする。

昨日六条に言われた通り、頭の中で力をイメージしてみる。
俺の手は、今目の前に居る敵の体を貫通するのだ、と。
その状態で、俺は再び拳を固め、吸血鬼にパンチを入れてみた。

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あきゅろす。
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