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雪月花
113
「こいつらは元々、こうなる運命にあったんだよ。ただそれだけの事さ。
言わば、あんたらが強くなるタメの必要経費。だからこれは無駄な惨殺なんかじゃない。
この俺が気に入った連中のタメにその命を捧げられるんだ。
こいつらだって幸せだろうよ」

んなワケあるか。
声には出せなかったが、俺は心の中で確かに毒づいた。
同時に、俺の中の何かがコイツを野放しにしていてはダメだと警告する。
今この場でコイツを倒せない自分の弱さ。それに心底腹が立った。

今俺達を囲む吸血鬼の中に、顔馴染みは居ない。
正直それにホッとしてる自分も居る。
しかし、こいつらにも家族や友達、恋人…と様々な人間関係が、未来があった筈だ。
今この瞬間、こいつらが居なくなった事で悲しんでる人だっている。
俺だって、神童や咲羅を失ったりしたら絶望的な気持ちになるに違いない。こいつらだって例外じゃないんだ。
こいつらの今を、未来を、他人に奪う権利なんてない。

今夜だけで一気に色んな感情が溢れすぎて、もう上手く思考が回ってくれない。
だけど、コイツだけは絶対に倒さなきゃいけない。
素直にそう思うのだ。


ボス吸血鬼は思い出したように、そうそうと言葉を付け加えた。
「使い魔。お前は良い目をしてる。きっとハンターの片腕として役に立てるよ。
だから頑張ってとっとと強くなって、早く俺と敵対してくれ。
俺を楽しませてくれ!
俺に存在の証をくれ!
その手で刻み込んでくれ!!
ひひ…ひはははははははははははは!!」
ボス吸血鬼の汚い笑い声が夜の闇に響き渡った。
「何様よ…」
それに次いで、六条がボソッと呟いた。
ボス吸血鬼はそれを聞き逃さなかったのか、
「前にも言ったろ、ハンター?俺は神になるんだ。
誰も俺に逆らえない。絶対的な力を持つ俺が、この世界をきっと良い方に変えていく」
「何度聞いてもバカバカしい…」
毒づく六条。
俺もまったくもって同感だ。
コイツはマジで頭がイカレてる。世界を変えるだ?寝言は寝て言えってんだ。
しかし、相変わらず恐怖から言葉に出来ないチキンな俺である。情けない。

「使い魔。こんだけの吸血鬼を用意してやったんだ。
ちゃんと倒してよ?間違っても、やられちゃイヤだよ」
そうだ。いくらなんでもこの量はヤバい。六条とて瞬殺は無理だろう。
俺も自分の身は自分で守るしかない。

ボス吸血鬼はトンと地面を蹴ると、俺達の頭上、街灯の上へと飛び移った。
呆気にとられた俺達を見下すと、
「さすがに疲れたから、俺はそろそろお暇するよ。
ちゃんとプレゼントも渡せたし、まだちゃんと顔を合わせてなかった使い魔にも会えたしね」
「…っく」
返す言葉が出て来ない。いつもの減らず口も化け物相手じゃ毛ほども役に立たない。
六条は黙ってガンを飛ばしてる。

「一応、俺の気配がこの公園から消えたらあんたらを襲うよう、彼らには言ってある。
今夜は一方的に話しちゃってすまなかったね。あぁ、申し遅れたが俺は純志麻千尋。
ハンター、使い魔、今後ともよろしく。健闘を祈るよ」
勝手に名乗ったボス吸血鬼、純志麻千尋とやらはバランスが取りづらいであろう街灯の上で、丁寧に会釈した。
そして次の瞬間には、俺の視界から純志麻は消えていた。


「ぐへぇっ!」
その刹那、俺は純志麻が言った通りリミッターが解除された吸血鬼の、見事なまでの不意打ちを食らった。
耳をつんざくかの様な風を切る轟音が俺の鼓膜を襲う。
次の瞬間には、俺の体は公園のフェンスまで吹き飛ばされた。

「シノブっ!!」
距離にすれば60メートルくらいか。普通ならそんなに遠くないハズなのに、叫ぶ六条が遥か遠くにいる様な感覚に陥った。
その六条も、これだけの敵が相手じゃ俺を助けに来る余裕がないようで、次々に襲い来る敵を大剣を振りかざし応戦している。防戦一方だ。
俺も何とか体を起こす。
体中が痛い。まだ傷だって治りかけだってのに、これじゃどうにもならない。

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あきゅろす。
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