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雪月花
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いつ吸血鬼の大群に飛びかかって来られるか判らない恐怖が俺を襲う中、俺の耳に吸血鬼の集団の一番後ろから、クックッと言う笑い声が聞こえてきた。
「今夜も綺麗な月だ。思わず見とれちまうと思わないか、ハンター?」
「……お前」
その声に続き、背中越しに六条の声が聞こえた。
声の主は吸血鬼の集団を押し退け、満を持して俺達の前に姿を現した。

街灯に照らされたソレは、まだ幼さの残る少年だった。
年の頃は俺より一つか二つ年下くらいだろうか。女の子のように華奢な体をしている。
少年はクックッと喉で笑い、俺と六条の顔を交互に見比べた。

六条の反応で察した。
今俺達の目の前に居るこいつが、昨日六条が敗北した吸血鬼なんじゃないかと。
見てみれば確かに性格悪そうな顔してやがる。
「ボス直々にお出ましとは、どういう了見かしら」
六条が問うた。

「そんな怖い顔しないでよ。
俺はあんたみたいな存在に出会えて心から幸せに思ってるんだから。
約束は約束。俺はまだ手出ししないよ。
今日はあんた達にプレゼントをしたくてね」
「プレゼント?」
ボス吸血鬼のフレンドリーな言い方が何とも癪に障る。
六条の声にも苛立ちの色が見えていた。

「そう。言ったろ?
俺は死闘がしたいんだって。
あんたならそれをくれると思ったんだ。
きっと俺に生きてると実感させてくれるんじゃないか、ってさ。
こんな出会いは、一生のうちでたった一度だってあるか判らない。今回を逃せばもうないかもしれない。
だから、俺はあんたらとの出会いを大事にしたいんだよ。
早く俺と渡り合えるくらい強くなって欲しいしね。
だから、プレゼント」

ボス吸血鬼はケタケタと笑いながら両手を高らかに広げ、
「ここの吸血鬼、ぜぇんぶ狩っていいよ」
憎たらしい笑顔でそう言った。
「…この人達は?」
俺と背中を合わせたまま、六条が静かに問う。

その問いに吸血鬼は喉で笑いながら、
「何?質問の意味が判らないんだけど。
ちゃんと答えるから、具体的に質問してよ」
「この人達を何故吸血鬼にした?
別に信用してたワケじゃない。だけど、これは無差別よね」
六条の声がどんどん重くなっていく。
これは六条…怒ってるのか?

六条の問いかけを受けたボス吸血鬼は、ポリポリと鼻の頭を掻いた。
そして再び笑顔を浮かべ、
「ははっ、あんた達を強くしてやるタメだって。
あんたはそこそこ戦えるかもしれない。それでも俺には傷一つつけられない。
だがそっちの使い魔はどうだ?」
使い魔ってのは俺の事か?

ボス吸血鬼の視線が俺に向けられた。俺と目が合うと、さっきの憎たらしい笑顔で笑いかけてきた。
そのまま話を続ける。
「見た限りじゃ、そいつはまだ戦力にもなってないのが現状だ。
それなりに戦えるようになるには実際に戦って、経験を積むべきなんだよ。
ハンター、あんたの考えはズバリそれだろぅ?」
不意に問いかけられた六条は答えない。
ボス吸血鬼は、今度は六条を見つめた。
そのままゆっくり六条に歩み寄り、六条の目と鼻の先にまで顔を近付け、
「だからこうやって、最高の舞台を用意してやったのさ。
大変だったんだよ?
1日でこんだけの吸血鬼つくるのも」
「とんだ嘘吐きね」
ボス吸血鬼にかなりの近距離まで近付かれても、六条は依然として微動だにしない。

ボス吸血鬼はハハハ、と笑うと、ヒョイと六条から離れた。
そのままズボンの両ポケットに手を突っ込み、踵を返す。
公園から出るつもりだろう。
しかし、2、3歩歩くと、俺達の方へと振り返った。
そして、例の憎たらしい笑顔を浮かべながら口を開く。

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