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雪月花
15
「あはは。冗談だよ、冗談。
まぁ明日は休みなんだしゆっくり休んで、月曜日はちゃんと来るようにね?」
「…文化祭の準備だからか?」
「当然でしょ〜
ただでさえ忍は役に立たないって思われてるんだから、こういう時くらい名誉挽回しなくちゃ、ね?」
私の言葉に、彼は“あの夢さえ見なけりゃな”と、顔をしかめてそっぽを向いた。
けれど、私はそんな事は気にもしない。
それはいつもと、何ら変わらぬ掛け合い、同じ流れなのだから。

プン、と余所を向く彼の手を、私は不意打ちと言わんばかりにギュッと握り締める。
最早何度もやっているコトだから、彼も分かってはいただろう。
そうすると、忍は“なんだよ…”と、軽く顔を赤らめならが私の方へと振り向くのだ。
その瞬間に彼も私の手を握り返す。

多少冷たくなっていた忍の手。
まるで捻くれ者の様に顔を背ける黒霧忍。
やっぱりいつもと変わらない。
私は、そんな素直じゃない子供じみた忍のコトが大好きだった。
確かに口が悪く、口八丁で、お世辞にも性格が良いとも言えないし、何に対してもやる気のカケラを感じさせない彼。
でも、私のこの『好き』という感情に偽りなんてモノは無い。
私は心の底から彼のコトが好きで、いつまでもこの幸せが続けばいいと、そう思うのだ。

カラン―――――
駅までの道程、T字路を右に曲がった途端突然耳に届いた物音に、私と忍は足を止めた。
それと同時に、私から忍の手が離れて行く。ムードがぶち壊しだ、なんて考えは沸いてこない。
ただ、街で起きている謎の怪奇殺人の事が脳裏に浮かんだからだろうか、確かな寒気が背筋を過ぎるのを感じた。
恐らく、ソレは彼自身も同じなのだろう。
目の前に続く決してキツくは無い坂道。
私と彼は、その坂道の頂上を見据えて黙り込んだ。

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