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雪月花
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私、犬神咲羅が黒霧忍と話すようになったのは、ホントに偶然だったと思う。

私達の通う学校は、進学校でも何でもない、ただの県立高校だ。
周りの学校と比べれば偏差値は良くも悪くもなく、進学率も至って普通。
その割に制服がかわいいだの、男子に比べて女子の割合が多い、だのの不純な同機で志望する人間も少なくはなく、意外にも倍率は高かった。
そんな重苦しい空気の漂う、この学校の受験当日。

確か二教科目の終わりだっただろうか。
“数学どうだった?”
と、私に何の前振りも無く一人の男子が声をかけて来た。
それが、私と黒霧忍との最初の出会いだった。
その時の彼は初対面なのに馴々しく、ホントに受かる気があるのか、とも疑える程のやる気の無さ。
なんでも、彼が言うには“一人でも心を開いて喋れる人間がいる方が気楽にいける”との事らしい。
当時の私は、周りの人間と同様に切羽詰まっていて“別に私じゃなくてもいいじゃないか…”
なんて心の中で毒づきながら、嫌々話していた気がする。
それから彼は休み時間毎に、当たり前の様に私の前に現れては
“よし、頑張ろうな”と、一言だけ残して笑顔で去って行く。
正直、彼の心理は全く分からなかった。
むしろ分かりたくもない。
そう思っていたのに、受験が終わっても私の頭の中から、彼の名前が消える事はなかった。


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あきゅろす。
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