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雪月花
10
そのまま袖にスルスルと手を通し、外に出る身支度を済ませる。
「ホントに帰んなきゃダメなのぉ?
外寒いしぃ…私、何のタメに来たかわかんないじゃぁん…」
「わかんないじゃぁん、じゃねぇ。
別にプリントを届けに来たワケでもあるまいし」
「それなら、せめてもう少し暖まらしてよぉ…まだ体凍えてるんだからぁ」
「お前、何かに託つけて長居するつもりだろ?
来る度来る度やってるから、いい加減バレバレなんだよ…
それに、いつおばさんが部屋に来るかもわかんねぇんだから、また日を改めろ。
いない日なら、いくらでも話相手になってやるから…な?」

「何それ、酷くない?寒いのは本当なんだもん…」
なんて、今度は目を潤ませて、まるで捨て犬の様に見つめて来た。
この手口も、過去に三回程使われたモノだ。
咲羅の数ある長居戦術の手口では、寒さに託つける、ということで冬にしか使うコトができず、なかなかレア度が高い。
しかし、そう何度も妥協していては、咲羅を調子に乗せるだけだ。
「よし、そんなに寒いんなら貸してやるから」
と、俺はさっき着たジャンパーを脱ぎ、投げるように咲羅に手渡してやった。
渡されたジャンパーに一瞬目を落としたかと思えば、またすぐに俺の顔を凝視する。
「……忍のバカぁ」
「はいはい、どうせバカですよ。
とにかく着たら行くからな?」
案の定予想通りの答えで、俺も返答に困る必要はなかった。
肉まんくらいなら奢ってやるから―――
一応そう付け足し、文句のありそうな顔をする彼女の背中を押しながら、俺達は部屋を後にした。

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