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雪月花
1、黒い影
1月初頭。
街は何年ぶりかも思い出せないくらい、久しぶりの大雪に見舞われた。
雪は二日に渡って降り続け、一面は幻想的なまでの銀世界。
降り止んだ今になっても尚、空は灰色一色に覆われていた。

午後三時過ぎ、まだ日没に時間があるにも関わらず、街を行く人の姿はおろか、車の通りも全く無い。
まるで街全体が死んでしまったみたいで、生存者は自分一人…
そんな気にさえさせられた。

積もりに積もった雪の層は、足首までもスッポリと飲み込んだ。
雪を踏み付けて歩く度に発せられる『サクッ』という音が、耳に届いては消えてゆく。

…そもそも、こんな日に自分はどこへ行こうとしているのか、それすらも分からない。
「…はぁ――――」
無意識についた大きな溜め息が、白い靄となって虚空を舞った。
活気の無い死んだ大通りを横目に、黒霧忍の体は何かに誘われるように。
意志も無く前へ前へと進んで行く。

楠木運動公園。
俺は静かに公園内に足を踏み入れた。
楠木運動公園は、俺の街で唯一の大きな公園と言っていいだろう。
有名なマンモス校の校庭を、丸ごと押し込んでもスペースが残るくらいの、公園と言うよりは一つの広大な庭園。
公園の中には夜間でも行えるナイター設備のついた野球場、サッカーグラウンドにテニスコート。剣道やバドミントン、卓球等の屋内競技も常時行える総合体育館が設置されている。

利用時間も朝六時から夜の九時までと幅広く、料金も格安な為、昼夜問わず不特定多数の人間が利用していた。
しかしそんな公園も、一面が雪に覆われては利用する人の姿は無い。
ただでさえ空は薄暗いのに、無駄に広いこの空間がこんな雰囲気になってしまっては、逆に不気味にさえ感じられた。
それでも俺の足は止まらない。

変わらず、サクサクと雪を踏み付けて進んで行く。
ふと、俯いた顔を上げて目に止まった総合体育館前の大時計は、午後四時を指している。

「まったく、何やってんだ俺は…」
意味も無く行動する自分に嫌気が差し、思わず自分に文句を漏らす。
呆れながらも、やっぱり俺は足を前へと動かした。
自分の本心と自分の行動の矛盾には、正直呆れる事しかできない。

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