新学期が始まった。

ふと、考えてしまうことはあるけれど、時間ってのはやっぱりすごい。
恋しいと思う気持ちが減少していくのが分かった。
失恋というものは本当に時間が解決してくれるんだなと思ったけど、あれだけ一人舞い上がった気持ちを持ちながらの日々はとても辛かった。
と、今なら思い起こせる。
ずいぶんと冷静になったもんだ。


始業式に出るのが億劫で…、というよりせっかく落ち着いたのに、全校生徒が集まる場所にいたらきっと先輩を探してしまうのがイヤで、俺は屋上に行った。
3m以上あるフェンスが必要以上に何かを訴えていてムカついた。
ここまで高いとよじ登って飛び降りてやろうかとか考えてしまう。
天邪鬼な考えだ。

暦の上では秋の始まりだが、まだまだ夏を引きずっているこの太陽の暑さは異常だ。
今年は特に暑い。
じんわりと汗が出てきて不愉快になる。それでも風が気持ちよくてこの場を離れる気になれなかった。

フェンスの網に指を絡めて空を眺めた。
怖いくらいの青空、こんな日は悪い考えも全部飛ばしてくれそうな気になるから不思議だ。
全部太陽が、空が吸い取ってくれるようで。

気持ちがいい。

額をフェンスに押し当て、風を楽しんでいるとドアがぶち破られるような険しい音がした。
それは屋上内に響き渡り、ドアの近くにいた俺には耳鳴りでもしそうなくらい煩いものだった。

湧き上がる焦る気持ち。
始業式をサボってこんな場所にいることもそうだが、厄介な人だったらどうしよう、この場をさりげなく逃げるにはどうしたらいいか、そんなことが走馬灯のように頭をめぐり。
もともと暑さのせいで早かった心臓は病気なんじゃないかと思うくらいに早く、大きく動いていた。

運がいいのか悪いのか。
一度関わりを持つとどこまでもかかわってしまうのは運命なんだろうか。
見るのがイヤで屋上にやってきたというのに、どうしてこうもピンポイントで出会うのか。
デパートで会う前なら素直に浮かれて喜んでいただろう。
自分から駆け寄って話しかけていただろう。

「おータイスケ久しぶりー。お前もサボってんだー」

外れかかった古いドアをガタガタと乱暴に直しながら、先輩は笑顔で俺に言った。
フェンスに絡ませた指を外すことなく振り返った俺は、さっきの音と先輩の登場で心臓が衰弱していて言葉がでなかった。
やっぱり笑顔も何もかわりのない先輩。
色も黒くなって真っ白なシャツが似合っていた。

普段何をしているのか分からなくて、先輩の日常が分からなくて。
会いたくなかった。
会いたくなかったのに。

先輩の笑顔が近くにあることがどうしてこうも嬉しいんだろう。

「ちょっと喜田も手伝えよ」

ひょいと、顔だけを校内に戻して、先輩が言った。
すると俺からはドアに隠れて見えはしないが先輩とは違う声が聞こえて、校内からドアを蹴っている音がした。
どうやら先輩は一人じゃないらしい。

先輩と二人だと心も何もかも蘇ってしまう。
しまいこんだ感情全部。
だから丁度よかった。
でも、息が詰まりそうなのは治らなかった。


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あきゅろす。
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