「で、捻挫だって?」
「あ、はい。右の…」

言いかけて、口を噤んだ。
わざわざ肉食獣に餌を与えてどうする自分。

捻挫した場所もうっかり見せるところだったがぎゅっと拳を作ってなんとか見せなくてすんだ。

「右の、何?」
「いえ。ただの捻挫なんで大丈夫です」
「ふーん。見せて」
「…それはちょっと」
「ちょっとなんだよ」
「シップ貼ってテーピングしてもらってるんで」
「だからそれを見せろって言ってんのー」

バサッと人の雑誌を遠慮なく乱暴に投げ捨て、ゆっくりと先輩が近付く。

「近付かないでくださいよっ」
「なに怯えてんだよ」

苦笑しながらベッドに乗り込んでくる先輩。
ギシ…、とベッドが鳴る。

「近い近い! 先輩近いです!」
「早く見せてって」
「やです!」

俺は背中を壁に貼り付けて手を突っぱねて先輩が近付くのを拒んだ。
そしたらその手首を捕まれて一まとめにされ、いやな記憶が蘇る。あのとき暴れたときもこうだった。

「せん、…やめてくださ…」
「だからー俺は怯えた顔はあんまり好きじゃないんだって」
「…せんぱ、い…が悪い…」
「仕方ないなぁ」

手を解放してくれた先輩は優しく俺を抱きしめてきた。
先輩が怖くて青ざめていただろう俺、だけど今抱きしめられる意味も分からない。

「せんぱい?」
「んー?」
「…なんで抱きつくの?」
「怯えてたから」

怯えたら、抱きつくのが普通なんだろうか。
でも俺は男だ。
先輩の胸に手を当てて押しのけると先輩は簡単に離れていった。

「お前顔赤いよ。さっきまで青かったのに」

確かに顔が熱いから、先輩の言ったことは本当なんだと思った。恥ずかしくて顔を横に向けると、そのままぐらりと視界が揺れた。

「恥ずかしい顔は好き」
「…ちょ…、せんぱ…?」

何故かベッドに押し倒されて先輩は俺を見下ろしながら俺に跨ってくる。
抵抗しようとした両手、それはそれぞれに先輩につかまれてベッドに縫い付けられた。



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