6
夜の住宅街。
俺が運転して、先輩が後ろに乗っている。
俺の首に腕を巻きつけて、べったりくっ付いてきて…。
「…お、もい…です」
「んー? お前の髪の毛すげーいい匂いがするー」
「ちょっ! やめてください!」
俺の髪の毛に顔を埋め、ぐりぐりと鼻を擦り付けていてくすぐったいような、気持ち悪いような、とにかく背中がぞわぞわした。
腕にも力が入ってハンドル捌きがよれよれになる。
傍から見ればじゃれあっているようにでも見えるかもしれないかな。でも俺はそんなことされていながら運転できるほど器用じゃない。
「せんぱい、転んじゃうから、やめて!」
「こんなんで転ぶかよー」
何度注意しても先輩は俺の嫌がることしかしなくて、服の上から探り当てられた突起を摘まれると、体が飛び跳ねて派手に自転車を転ばせてしまった。
からからと回る車輪。
転げ落ちたアイス、俺、…先輩。
「いた…」
「……おい」
「す、すいませんっ! でも、先輩が悪いんですよ!」
腰を擦りながらとりあえず謝る。でも俺は悪くないから先輩のせいにして。
だって「転ぶから」とお願いをしていたのに先輩はそれを聞き入れてくれなかった。
誰がどう見ても先輩が悪い。先輩はジーンズでよかったけど、俺は短パンだったからまた膝を擦りむいていた。
「つか、お前また血ぃ出てんじゃん。俺んちすぐそこだから手当てしてやるよ」
「結構ですっ!!!」
あなたに手当てしてもらったらなおさら悪くなってしまう。それより俺の精神面に被害が出る。
俺はアンタに犯されたんだ。
「マジでいいですっ! いきません!」
「遠慮しなくてもいいよ」
道路に座り、自転車にしがみつく俺。あちこちが痛くてまだ立てないでいた。
「今、俺んち誰もいないし」
「もっと行きたくないです!」
うっかり本音を出してしまって、どうやら先輩の不快な琴線に触れた様子。みるみるうちに先輩の表情が険しくなっていく。
先輩だってけっこう痛かったと思うのに、さっと立ち上がって俺に詰め寄る。
「あのねぇ。人の好意は素直にもらっておきなさい。手当てするだけだろ?」
先輩がそれを言ってもどうしても信じられません。嘘にしか聞こえないです。まったくの出鱈目にしか。
「も、俺に関わらないって、…約束しました…」
「“関わらない”なんて約束はしてないだろー。嘘を“許す”とは言ったけど」
え? そうだっけ?
考え込む俺から自転車を取り上げ、起こし、そして俺の手を引っ張って起こしてくれた先輩は腰や尻に付いた砂をパンパンと払ってくれた。
これじゃあ俺が子供みたいだ。
あちこちが痛い。
先輩はアイスも全部拾ってくれた。
その転げ落ちた中にはレモネードも入っていてちょっと胸がぎゅうってなった。
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