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front and rear of NY
弥子センセと『年下』のあんちくしょう 01


「おはよう!
 ……ぶっ!」
 私がいつものように事務所に出勤すると、ドアを開けてすぐ、目の前には既にネウロが立ちはだかっていた。
 おかげで、私は勢いでその胸に飛び込む形になってしまう。

「何よネウロそんなとこで。
 ……ん。
 ……んん…?
 …………?」

 ……何だろう。何故かちょっとばかりの違和感が。

 違和感を覚えた分だけ私の体はネウロに委ねた…要するに出勤早々ネウロとくっついたままになってしまってることに気が付いて、
「あっ…ごめん。
 …………」

 改まって見上げ見るネウロの顔にも……どうしてか違和感を拭えない。

「おはようございます、センセ。出勤早々大胆ですね」
「……あんたが…そこに、いるから…
 じゃない、の………」

 声、までも…………


 かつて『イレブン』が完璧に変身したネウロを、それでも私は見破ることが出来た。

 だから、わかる。これは本物のネウロだ。だけど、全てにおいて何かが微妙に違う。

「……ネウロ」
「はい。何ですか?センセ」
「今度は何を企んでるの?」
「企んでいるなんてとんでもない」


 頭を預ける胸が狭いような気がする。
 間近で見上げた首があまり痛くない。肩の位置が低く感じられる……

 あぁそうだ、ネウロの背が少し低い…身体が少し小さいんだ。

 私を『センセ』と呼ぶ声が、少しだけ高い。声が、若くなってる…よね。

 ……そもそも『センセ』って、何だ…?



 ネウロが私の両肩を掴む。黒革の手袋に包まれた手のひらすら、少し小さい。


 ようやく、思い当たる。


「……あんた、自分の見た目年齢いじった?」
 ネウロは屈託のない笑顔を見せた。
「ご明察ですよ、センセ」

 満開の笑顔のネウロと裏腹に、私は力が抜けそうになって、
「……何してんだか」
 と、呟く。


 そこでようやく私達は体を離して、事務所の中に入っていった。


『おはよう弥子ちゃん!
 そっか、ネウロ様、いつもと何か違うなーとは思ってたけど、そういうことだったんだね』
 あかねちゃんもホワイトボードにそう書き付ける。


「……それで、今度は何歳くらい?」
「かつてのセンセの年齢程度、ですかね」
「…………」

  『かつて』……三年前ってことだな。てことは16歳か。これはまた、絶妙な年頃に……

 ただでさえ年中思春期のようなヤツなのに、見た目もまんま思春期になってどーすんのよと言ってやりたい。



 それに、しても……

「不思議。あまり似合わないんだね、その見た目年齢になると、そのスーツ」
 私は首を傾げてしまう。

 高校生くらいの見た目、『少年』のネウロには、いつもの青いスーツが浮いて見えてしまう。サイズはちゃんと合っているのに。
 そして、お子ちゃまネウロの時は似合ってた覚えがあるのに。


「でも今からあんたの服買いに行くのもなー」
 言ってから、昔、ネウロが小ちゃくなった時、私は喜び勇んで買いに行ったんだっけって思い出す。

「その心配はいりませんよセンセ」
 ネウロはトロイから、見覚えのある白いシャツとジーンズを取り出した。
 いつぞやネウロが着たカジュアルな私服。とってもシンプルだけど、それだけ素のネウロの格好良さが浮き彫りになる……

 うっかり懐かしいと思ってしまったけど、
「物持ちいいね、ネウロ」
 懐かしい…そんなことは口にしないで、わざと呆れた口調を装って、私は言う。


 ネウロはそれを私に差し出して、
「着せてください、センセ」
 何だか可愛らしくおねだりしてきた。
「何で私が」
「ダメ…ですか?僕はセンセに着せてほしいと思ってるんですが」
「…………」

 そんなこと言われて、私はついついドギマギしてしまう。

「イヤですか?」
「でも…だってさ………」
「センセは、すごく意地悪ですね。
 このスーツを似合わないってセンセは思っているのに…
 僕は、この似合わない格好をしていなきゃならないんですね。
 本当に意地悪です……」
「………………」

 きゅるるんって擬音が聞こえてきそうな屈託のない瞳で見下ろされてはたまらない。


 正直ね、このネウロって、めちゃくちゃ可愛らしいのよ。懸命にそうと思わないようにしてるのに、どうして張本人があざとくしてくるんだろ?

「ね?センセ」
 ハートでも飛ばしてそうな声色で懇願されて、私はとうとう根負けする。


―……こぉの、年下気取りのこんちくしょうめが……!―



 はぁ……と、ため息をひとつ吐いて、私はネウロのスカーフを外す。

 何だって、こんなことに乗らされるんだろ…って思わなくもないけど、これもやっぱり惚れた弱みなんだろうし、ノっちゃった以上ストップは出来ない。

 ジャケットを脱がせて、ベストのボタンを外して……


 そこまでして、私はネウロの手を引いて給湯室に導いた。

 別に、コイツのハダカなんて見慣れてはいるけど……
 こういうシチュエーションなんて初めてで…いや、厳密には一度あるけど、あの時はネウロの見た目がお子ちゃまだったんだし…何にせよ戸惑いが過ぎる、から。
 せめて、あかねちゃんから見えないように。


「どうしたんですか?センセ?」
「いいから!」
 身に付けてるものをそこで全部引っぺがして、ジーンズから履かせて、それから白いシャツを着せかける。ネウロが大人しく言う通りにしてくれるのが有難い。
 けど、普通に目の毒なのは否めなくって……



「……はい、済んだよ」
 軽く肩を叩いてやると、ネウロはやっぱりニコニコしたまま、
「ありがとうございます。センセ」
 と、言った。

 そういう演技…プレイし続ける気なんだな。

 まぁ、特に不都合はないけど。


「……だいたい、何でこんなこと思い付いたわけなの?」
 脱がせた服を腕にかけて、事務所内に戻りながら訊くと、
「それは、内緒です。センセ」
 と、中指を唇に当ててネウロはニコッと笑った。

 むー、生意気な。







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あきゅろす。
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