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front and rear of NY
名探偵ヤコちゃんとネウロお兄さん 2-1


 浅ましいというべきか、おとな気ないというべきか……



 ちと腹の虫の居所を悪くした我が輩のふとした思い付きに端を発したそれは…

 ヤコの早とちり故の妄想を呼び起こしてしまった。
 下らないと言えばそれまでだが、そう言い捨てるには厄介なのは確かだ。あらゆる意味で。

 とはいえ、少しばかり嫉妬心……しかも“自分自身”に対して……を露にするヤコをこの目に出来たのは思わぬ収穫であったりするなどして、面白かったものだが……


 何にせよ、我が輩は単にヤコを少しばかり…我が輩が不在だった故この目にしてこなかった時期のヤコに…若返らせ思うままにする……
 そのような心積もり。それだけ、だったのだ。

 ……確かに、浅ましくおとな気ないとしか思えないな。だが我が輩は我が輩なりに真剣だったのだ。
 事がヤコに関することなのであるから、仕方なかろう。


 そうして、実際にこの目にしたのは、思ったよりはるかに幼くなってしまったヤコであった。
 使ったことのない『能力』では加減もわからず…まぁこのようなものか。

 確かにこの姿のヤコも、我が輩が目にしたことのないヤコではあるのだが。想定外にも程がある。

 それにも関わらず……

 そして、我が輩ならば任意でそのような状態から戻せるにも関わらず……
 何故かは俄に解らないながら、このヤコを時間の許す限り(色めいた意味ではなく)愛でたいという願望が湧き、それを優先してしまったという訳だ。


 で、あるのに……



 全く、どこが一人前のレディであるのやら、少々意固地となり先をゆくヤコ。その足取りはひどく危なっかしい。

 だが、事務所に戻るのかと思いきや、自宅に向かっているようだ。
 ということは、家人が居ないのであろう。

 思わず笑みが漏れ、懸命に歩くヤコの後をゆるゆると歩み追う。


 道行く人間共がそんなヤコを振り返り見る。一人ではとても歩かせられない外見の年齢に加え人目を引く容姿のヤコのこと。一瞬でも目を離せば、忽ち不届き者に拐われてしまうのだろう。




 我が輩の居ぬ間はひとりで海外を飛び回っていたことが多かったというヤコ。

 ひとりで生きるちからを既に備え持つが、我が輩と共に在ることを当然とするヤコは今……ほんとうに守ってやらねば危険極まりない存在なのだ……



 そんなことを考えつつ暫く歩いていくと、ヤコがまた小さな段差に躓いて転んでしまった。

 四つん這いで少しの間呆然としていたヤコだったが、我が輩が追い付くと、こちらを見上げる。その顔は歪みに歪んでいる。


「ヤコ」
 名を呼ぶと、
「…………
 ぅうう〜〜……
 ねーうーろ――!!」
 ヤコは今まで聞いたことのない泣き声をあげて泣き出した。
 まるで、子供そのもののような。

「いたいよー。あるいてばっかりでつかれたよー」
「…………」
 これは一体どうしたことであろうか……

 精神まで幼児に戻るのならば、この姿になった時点でそうなるのが自然に思えたが…考えても意味がない。第一面倒臭い。


 本当の幼児の如く泣きわめくヤコに手を差しのべ、
「……おいで、ヤコ」
 いつぞやヤコに言われたことを思い出しつつ、そう声をかけると、ヤコはすぐさま涙を止め、顔を綻ばせ我が輩の手を取り立ち上がった。

 抱き上げると、涙が伝った跡が頬に鮮やかなのが目についた。

「ねうろがいじわるいうから、あたし……」
「……そうか」
 泣き言を言うヤコに短く返し、軽く舌先を触れさせ涙の跡を舐め取っていく。
 涙の味がいつもと違う。

「ねうろ、やさしい」
 ヤコはうっとりと目を閉じて言う。更に舌足らずの口振りで。
「我が輩はいつも優しかろうが」
「うそばっかりいってるー」
 我が輩の言葉を受けての楽しそうなヤコの笑い声が、ふと収まる。小さな両掌が我が輩の頬にのびてきて、ヤコは軽くだが唇を触れさせてきた。

「えへへー
 こどもだと、あんまりはずかしくないんだね」
「…………」
 ……このようなことをするならば、完全に幼女に立ち返っているわけではないのであろう。
 半分子供…見た目通りの幼稚園児、半分は元の19歳の精神……それが秩序などなく混ざり合い、ランダムに顔を出す……といったところか。



「ねぇねうろ。はやくうちにいこうよ。そんできょうはねうろ、うちにとまっていくの!」
 もう決まったことのようにヤコは言った。はしゃぎながら。
 時折見受けられる子供子供した言動は、甘えたがりを前面に出している。
 勿論、悪く思う筈もない。


 ヤコが望まなくとも、このようなヤコを一人になど出来る筈がない。我が輩は返事をせず、大股で歩き出す。

 それまでののろい歩みとは比べものにならないスピードで進んでゆくと、

「あっ……」
 ヤコが戸惑いの声をあげる。

 視線の先には、確かカナエとヤコが呼んでいたヤコの女子高生時代からの友人が、いた……






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あきゅろす。
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