front and rear of NY 名探偵ヤコちゃんとネウロお兄さん 1-3 「さあ…やこ。 その指でやこが見つけた犯人を示しなさい」 ネウロが幼い私を抱っこしながら、そう言う。 「……はんにんは、おまえだっ!!」 私はネウロが導く…勝手に指が動くのに任せて、『謎』を持つ男の人に指先を向けて、『いつもの言葉』を口にする。 「……っ。 こんなガキが何を……」 犯人は悔しそうな顔をして唸ってる。 ―…まぁ……そりゃそうだよね……― 「おや。 幼女の目ひとつ欺けない愚か者が何を言うことやら…… まぁ…やこの目を欺くなぞ出来る筈がないのですがね」 ネウロは全然怯むことなく、笑い声を混ぜながらそう言い放つ………… ネウロが助手として場を展開させるだけで済むと言っていた通り、既に証拠も押さえてあって、状況証拠なんかも大人の私が解いたことになってるけれど…… ネウロは、今の姿の私も犯人を見抜いたって体裁をとった。 大人の“私”は、ちょっと都合がつかなくて……ってことにしてある。 私についてネウロは、 「やこ…この子は先生の縁者です。 まぁ…のっぴきならない事情がありまして」 ある意味、全然ウソをついていない説明をした。 そして、それ以上余計なことは言わなかったし、それについての詮索を許さない雰囲気を醸し出していた。 何でもアリなネウロらしい、見事な開き直りっぷりのおかげで、私は世にも珍しい…というか唯一であろう『幼女探偵』になっている。 ……あくまでも、今限定だけど。 ネウロは今まで公の場で私を名前で呼んだことが全くなかったし、私に対する口調もいつもとちょっと違ってたりしてるから、私にはくすぐったくてしょうがなかった。 そして…私が“幼稚園児”だからか、いつものDVや公開プレイを絡めた解説をしないのも面白い。 「やこ、危ないから少しの間降りていなさい」 ネウロはそう言って私を降ろした。私は壁際に走って移動して、ネウロが犯人を追い詰める…ネウロの食事が終わるのを待った。 壁際に立つ私を、大人達がじーっと見ていて落ち着かない…… 「よく出来ましたね、やこ」 ネウロが私の元に戻ってきて、私の頭を帽子越しに撫でながららしくない誉め言葉を口にする。何か親が子供にする仕草みたい。 ちょっとうっとりしてると、ネウロは私をまた抱き上げた。 「流石に疲れたでしょうから… もう、おいとましましょうか」 そんなこと言ってるけど、私が応えることは決まってるんだよね…… その通りに、私は言う。 「うん」 って、ただそれだけを。 周りの人達が……特に等々力さんと石垣さんは、数時間前事務所で会ってるんだから……何か訊きたげにしてるのはわかってるだろうに、ネウロは盛大に無視している。 今更だけど、『私』がいない時は誰もネウロに積極的に話しかけることが出来ないんだな。 「それでは、今日はこの辺りで。何かありましたら明日事務所で承りますので」 そう素っ気なく言って私を抱っこしたまま場を後にするネウロ。皆がその後ろ姿を見てるんで、私はネウロの肩越しにバイバイしてあげた。 等々力さんだけ、手を振り返してくれた。 「なかなか上手く振る舞ったではないか。流石は我が奴隷」 「……もっと、よさげないいかた、あるとおもうんだけどー」 「何を言う。最上級の誉め言葉ではないか」 ……そうだよね、ネウロ的には。 誉められて嬉しいのには違いない。 違いない、けど。 「そうよ、あたしはいま、からだはこども、ずのうはおとな…れでぃのめいたんていなんですからね。 こどもあつかいなんてしていいとおもってるの?ねうろ」 私はネウロの腕の中で胸を張ってアピールする。 「……一人前のレディならば、こうして抱き抱えられるような甘ったれではない筈だが」 「そもそもだっこはねうろがしてくれたんじゃないの!」 そう、ネウロが私を抱っこしてる今の状態は、ネウロがし始めたこと。 事務所を出てからの道中、ネウロは先を行きながら私の足が遅いだの何だのぶつくさ言っていた。 私だって小さくなっちゃって短くなった足で頑張ってネウロに着いてってるのに……って意地になってずんずん歩いてたら、ちょっとした段差につまずいてコケてしまって。 『…………』 何だか情けなくなってきて、その場でへたりこんだまま佇んでると、長い腕が伸びてきて、 『……こうしてほしいならば素直に言えば良いものを……』 って、ひょいっと私は抱き上げられた。 そんなこと特別私は望んでなかったんだけど、たぶんネウロは私に『年齢相応』に甘えて欲しかったのかなぁ…って。 ともかく、ネウロから抱っこしてくれたのに憎たらしいこと言われて私もムッとして、 「いいから、もうおろして! ひとりであるけるもん!!」 ネウロの腕の中で暴れながら言うと、ネウロは短いため息を吐いて私を降ろしてくれた。 [*前へ][次へ#] |